3-2.女性恐怖症になったわけ



 油断ならない。


 だから美姫といるのは嫌なのだ。こういう台詞せりふを息をくようにするから。



「そうかいそうかい」



 早鐘を打ち始める胸の鼓動を感じつつ、動揺を悟られないように箒を滑らせる。



「お前、気をつけた方がいいぞ。そう言う事、無意識でも男には言わない方がいい。勘違いするから」



「大丈夫ですよ」



「え?」



「こういう事、正臣くんにしか言いませんから」



「......あそ」



「顔、赤いですよ?」



「......うっせぇ」



 美姫から逃れる様に床に視線を移して箒を走らせる。


 胸が、痛い。ついでに言えば頭もクラクラして立ってることも辛い。


 こういう事、正臣くんにしか言いませんから。


 美姫の発した言葉の意図が理解出来ず、頭の中をグルグル駆け回って混乱させる。



「大丈夫ですか? 足フラフラしてますけど」



「......誰のせいだと思ってる?」



「女性恐怖症、ですか。......その、正臣くんってどうして女性恐怖症なんですか?」



「え?」



「答えたくなければ答えなくていいんですけど、その、ずっと気になってまして......」



 そう言えば、女性恐怖症だという事は一年のとあるきっかけで伝えたが、その理由は話してなかったとふと思う。


 もう、三年も前になる中学二年の頃のことーー幼馴染、土屋凛子つちやりんこの顔が頭に浮かんで胸が苦しくなる。


 正直話したくない話なんだが、妙に神妙な顔で美姫が見つめてくるので、正臣は肩をすくめて観念した。



「......昔、好きな人がいて、相手も自分の事が好きだと思ってた。それで告白したらフラれた」



「え、それだけですか?」



「まあ、平たく言えばな。だけど告白した場所が悪くてな。文化祭の......全校生徒の前でフラれた。しかもそれ、テレビで生放送されててさ。もう放送事故だよ放送事故」



 乾いた笑いを浮かべておだけてみたが、美姫は笑ってくれない。



「......なんと言うか、正臣くんがそんな大それた事をしたのが意外です」



「本意じゃなかったよ。なんつうか、告白せざるを得なかったんだ。文化祭独特の雰囲気っていうの? テレビ取材もあるってなってみんな浮かれてたんだよ」


 

 強張った表情で黙って聞く美姫の顔を直視出来なくなった正臣は、彼女の横を通り抜けて開けてくれた窓のさんに腕をついてもたれ掛かる。



「いつも仲良く話してるじゃん。大丈夫。絶対成功するよって勝手にエントリーされてさ。そんで告白してフラれて、次はフラれた事をイジられた」



「そんなの、酷いです」



「耐えれなくて、学校に通えなくなったよ。そっからかな。女性恐怖症を発症したのは。あ、ちなみに桜花学院希望したのも、中学の連中と関係断ち切りたかったのが理由でーー」



 話の途中、駆け寄ってきた美姫が正臣の手を握る。



「もういいです。もう話さなくて大丈夫です」



 上目遣い気味に見上げる不安げな美姫。心地良い体温が掌越しに伝わってくる。


 このシュチュエーションなら心臓が痛いぐらい跳ね上がるはずなのに、今は不思議と胸が高鳴らない。



「そんな顔、しないで下さい」



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