3-3.女性恐怖症になったわけ




「......どんな顔だよ?」



「無理してます」



「......そうか」



「ごめんなさい。私が話せっていったのに」



「いいよ。オレのこと無駄に構うお前にはいつか話さなきゃと思ってたし」



「......迷惑、でしたか?」



 迷惑、だったんだろうか?


 話の最中、記憶の古傷が傷んだが、今は全くと言っていいほど感じていない。


 むしろ無理やり押し込めて消化不良になっていた感情を吐露とろできたおかげなのか、少し楽になった気さえする。


 だけどそんな小っ恥ずかしいこと言えるはずがないので、相変わらず上目遣い気味に見上げてくる美姫にそっぽを向いた。



「別に。もういいだろ? そろそろ掃除するぞ」



 かれこれこの部屋に数十分いるのに全く掃除が進んでいないのはそろそろまずい。


 窓から差し込む強烈なオレンジの光が弱まったことに若干じゃっかんの焦りを覚えて美姫に握られている手を振り解こうと試みるが、更に力を込められてしまって叶わない。



「おい美姫、ふざけてないでそろそろ本気で掃除しないと......」



「ねぇ正臣くん、その記憶、私が上塗り出来れば、少しは楽になれますか?」


 

 跳ねる、心音。


 オレンジに染められた陶器とうきの様な滑らかな白い頬。宝石みたいに輝く、エメラルドの大きな瞳。



「......だからそう言う思わせぶりな発言はやめろって言ってるだろ?」



「正臣くんになら、勘違いされちゃってもいいです」



「またそう言うふざけたこと言って......ほら離せよ」



「あっ」



 ちょっと乱暴に美姫の手を振り解いて背を向ける。



「掃除、さっさとやって帰るぞ」



 震えそうになる声を精一杯制御して、熱を帯びた顔を隠す様にほこりっぽい床に視線を落とした。


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