3-1.女性恐怖症になったわけ




 この世はつくづく不公平だと思う。


 男女差別。貧富格差。


 桜花に古来より蔓延はびこる問題を今以上に恨んだ事はない。



「......マジでこの部屋一人で掃除すんの?」



 夕日の差し込む物が乱雑した埃っぽい教室を眺める正臣の口から情けない声とため息が一緒に漏れる。


 先生から告げられた授業中の私語の罰則は放課後居残り清掃。


 だが横に一緒に叱られた美姫の姿はない。



「美姫は生徒会で忙しいから厳重注意だけとか、マジで納得できん」



 愚痴があふれて独り言が止まらない。だがそれを抑えるつもりはなかった。


 校舎には人の気配は全く無い。強いて言うなら汚れで曇った窓の外から運動部の声が聞こえるぐらいだ。


 不当な扱いを受けたのだ。独り言を愚痴りながら掃除してもバチは当たるまい。



「さぁて、このきったねぇ教室のどっから手ぇつけるかなー」



「おっきな独り言ですね」



「うおっ!?」



 心臓が口から飛び出たんじゃないかと錯覚するほど驚く正臣にキラキラ輝くブロンドの髪を揺らした美姫がいつも通り意地の悪そうな顔を向けてきた。



「正臣くんの声、廊下まで響いていましたよ?」



 改めて言われると恥ずかしいが、それよりなんで美姫がここにいるかの方が疑問だ。



「なんでいるんだよ?」



「なんでって掃除しに来たんですよ。はい、箒」



「おお......」



「私が正臣くん置いて一人で帰っちゃうと思いますか?」



 うわー。この部屋、すっごい汚いですねと口にしながら部屋の中に入っていく美姫を正臣はボーっと眺める。


 そんな視線を知ってか知らぬか窓を開けて振り返った美姫が小首をかしげる。



「そんなところで固まってどうしたんですか?」



「いや、本当になんで来てくれたんだよ。掃除言いつけられたのオレだけだろ? 生徒会の仕事、大丈夫なのか?」



「生徒会のことなら大丈夫です。先輩達に任せて来ましたから。なんで来たってそりゃ、今日先生に叱られたの私のせいですし」



「自覚あったのか」



「そりゃありますよ。それに......」



 開いた窓から舞い込んだ柔らかな風が美姫の髪を優雅に揺らす。



「正臣くんと二人っきりになれる絶好のチャンスじゃないですか」



 屈託のない笑みを向ける美姫から反射的に正臣は顔を逸らした。


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