2-2.そんなにオレに期待しないで欲しい




 白ブレ。つまり高校から途中編入した庶民の生徒で、桜花の生徒会を務めた生徒は過去一人いない。


 伝統校、桜花学院の顔である生徒会。


 それを務めるのは幼稚舎ようちしゃから在籍する臙脂えんじブレザーと相場が決まっている。


 そこに正臣まさおみが入るなんてことになれば、それこそ臙脂ブレのメンバーから何をされるかわかったもんじゃない。



「珍しいですね。正臣くんが白だの臙脂だの言うなんて」



「これに関してはそうだろ?」



「いいえ。私はそうは思いません」


 

 返ってきたのは否定と力強い美姫の視線。



「桜花の生徒会メンバーは実力と実績のある生徒が選ばれる。それが今までは臙脂色のブレザーを着ている人が多かった。それだけです」



「その理屈ならオレには実力も実績もない」



「入学以来、全ての考査で満点一位を取り続けた人がですか?」



「それならお前もそうだろう?」



「私は既に生徒会メンバーです。そんな私と遜色そんしょくないなら、実力も実績もあると思いますが?」



「とは言ってもだな......」



「正臣くん」



 生徒会に入る器ではないと、どうにかして伝えたいのだが、端正な顔をしかめた美姫の細くて白い人差し指を口の前に立てる『しー』というジェスチャーに言葉を制されてしまう。



「そんなに自分を卑下ひげしないで欲しいです」



「だけどだな......」



「正臣くんなら大丈夫です。桜花は、変なんです。白ブレザーとか臙脂ブレザーとか、育ちとか生まれとか。時代錯誤もはなはだしい。そう思いませんか?」



 いつものおふざけを少しも感じさせない真剣なエメラルドの瞳に正臣が映る。


 美姫の言う事は全く持ってその通りだと思う。


 中学まで一般社会で育った正臣は特に桜花の異常性を感じていた。


 桜花学院を卒業した生徒達はその家柄と能力の高さから日本を引っ張る主要なポジションに就く人が多い。


 そんな人が格差を重んじてしまう。それは決していいことではないだろう。



「このままでは桜花はダメになる。変わらなくてはいけないんです」



「お前、凄いな」



「凄くないですよ。変えたいと思って、色んなことを訴えて試してきたけど変えられなかったんですから。でも、正臣くんなら変えられるかもしれない」



「おい、なんでそうなる?」



「途中入学の正臣くんだから出来る事があると思うんです。だから生徒会に入って力を貸して下さい」



 理由はちゃんとしてる。してるんだが、正臣は首を縦に振れないでいた。


 はっきり言って自信がない。期待されても正直困る。


 だが、目の前には期待をこめた表情でこちらを見つめる美姫がいる。


 なんて答えればいいんだろう。答えに悩んでいると頭からポカンと小粋な音が鳴った。



「早乙女、伏見。お前ら授業中ずっと話しっぱなしだったな」



 前を向けば教科書を丸めて腕を組んだ先生が怒りのこもった表情で正臣達を見下している。



「二人とも、後で職員室に来なさい」



 怒る先生に頭を下げて、美姫の方を向く。



「やらかしちゃいましたね」



「お前のせいな?」



 おどけた表情で両手を合わせる美姫に正臣はありったけの恨みを込めた視線を送った。






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