2-1.そんなにオレに期待しないで欲しい




「ねぇ正臣くん、そろそろ生徒会に入る気になりましたか?」



 授業中。口元に右手を添えて囁くように尋ねてくる美姫に一度視線を送って再び教科書に目を落とす。



「......えー? 無視ですか?」



 隣の席の正臣にしか聞こえない絶妙な声のトーンで話しかけてくる美姫に正臣は無視を決め込む事にした。


 今日の授業範囲は要点が多い。家で予習して内容は事前に理解しているが、美姫に構う余裕はない。



「むぅ......」



 悔しそうにうめいた美姫が特大のため息をついた。



「それなら仕方ないですね」



 鼻腔をくすぐる花の香り。


 視線を落とす教科書の上に広がる細い金の髪。


 隣に感じた温もりに慌てて顔を上げた正臣の真正面には息遣いを感じるほど迫る美姫の顔があった。



「おまっ、なにして......」



「これなら私の声、聞こえますよね?」



「ひゃあ!?」



 くすぐるみたいな美姫の声に思わず正臣の口から情けない声が漏れて、クラス中の注目を集めてしまう。



「伏見どうかしたか?」



 授業を中断されたせいか、不機嫌そうな表情を引っ提げた先生の視線が痛い。

 


「いえ、なんでも、ないです......」



 我ながら吹いたら消えそうな情けない声だと思う。


 次いで先生の視線が正臣から隣にスライドしたのと同時に美姫がゆったりとした動作で手を上げた。



「すいません。教科書忘れてしまって。伏見くんに見せてもらいます」



「そうか。早乙女が珍しいな。わかった」



 嘘。嘘である。


 美姫の机の上を見てみればそこに教科書が置いてある。



「おまえ、息をするように嘘つくな」



「これも女の子のたしなみです」



「やっぱ女子怖いわ」



 チラリと舌を出した美姫は一旦席に戻ると、机の上に広げていた教科書を証拠隠滅と言わんばかりに机の中にしまい、正臣の机に合体させてきた。


「さ、正臣くん、教科書見せて下さい」



「わかったよ」



 観念してニコニコ笑顔の美姫に見えるように教科書を広げる。



「ありがとうございます。それで、生徒会どうしますか?」



「......あのさ、なんでそんなにオレに生徒会に入って欲しいわけ?」



 正直、何故ここまで美姫が生徒会入りに執着しているのか正臣はわからないでいた。


 入りたくない理由は、学校でも有名な美女達で構成されているからというのもあるが、それ以上に根本的な要因がある。



「オレ、白ブレザーだぞ?」



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