1-2.早乙女 美姫
二年生の名前の羅列の頂点に君臨する名前、早乙女美姫。その下にはいつも通り伏見正臣の名前がある。
二人ともいつも満点同立一位なのだが、あいうえお順でいつもあのポジション。
別に
「皆さん、おはようございます」
徐々にヒートアップしていく怒鳴り合いを
声の主である美姫は正臣と目が合うと、パッと花が咲いたような笑顔になる。
「おはようございます正臣くん。あら? 朝からなんだか疲れたような顔をしてますね」
美姫が正臣の方に歩を進めると、さっきまでごった返していた生徒達がまるでモーゼの海割りのように道を開け、あっという間に正臣の隣までやってきた。
「おはよう、早乙女さん」
「え? ちょっとなんですか? 早乙女さんって」
「別に? お前早乙女だろ?」
昨日の恨みも込めてつっけんどんに回答すると美姫の頬がわかりやすく膨らんだ。
「むぅ。正臣くんのくせに朝から生意気です」
「くせにとはなんだくせにとは」
正直、こんな公然の場で美姫のことを呼び捨てするのは
早乙女美姫は全男子生徒にとっての高嶺の花だ。そこには白ブレ
出来ればこうやって話すことも遠慮したいくらいだ。
「テスト結果見てたんですか?」
「まあ、なし崩し的にな」
「正臣くん、いつも通りテスト全部満点だったじゃないですか。結果わかりきってるですから、別に見る必要ないと思いますが」
「まあそうなんだけど、自分以外の人の順位も気になるっていうか......」
「ふ〜ん」
美姫の意地の悪そうな表情に嫌な予感がする。
「他の人の順位ねぇ。ひょっとして、私のこと気にしてくれたんですか?」
「はあっ!?」
普段より甘ったるい声を出した美姫に周りの男子達が騒つく。次いで感じたのは殺気のこもった視線だ。
「違うわ! 誤解を招くような言い方するな」
「違うんですか?」
「それもあるけど、別に美姫だけじゃなくて他の人の順位もだな......」
話の途中、正臣の唇に美姫の人差し指が触れる。
「名前、呼んでくれましたね」
柔らかな美姫の笑顔。
まるで顔面が沸騰したみたいに一気に高温に達したのがわかった。
爆発するんじゃないかと錯覚するほど高鳴る心臓をブレザー越しに掴んで落ち着く様に念じる。
「お前、オレを殺す気か?」
「あはは。ごめん。正臣くんといるとついつい」
ついついで殺されてはたまったもんじゃない。
美姫に抗議の視線を向けて、心臓を落ち着けるために大きく深呼吸する。
「それともひょっとして、いつも通り私の一個下に甘んじてる自分の名前を見たかったんですか?」
「それは、断じて、ない」
「ふふっ。ちょっと怒ってますか?」
「ちょっとじゃない。......ほら教室行くぞ」
「はい」
さっきまで白ブレ臙脂ブレで騒いでいたのが嘘のようにすっかり静かになった昇降口を美姫と共に後にした。
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