第一章

1-1.早乙女 美姫



 桜花学院おうかがくいん


 日本トップレベルの偏差値を誇る、幼稚舎ようちしゃから大学までの一貫教育を有する名門校で、政財界で名をせる大物の子息令嬢も通っている。


 そこに高校受験し正臣は通っている。


(はぁ、昨日は散々な目にあった)



 昇降口で靴を履き替える途中、昨日生徒会室であった出来事を思い出し、取り出した上履きを思わず乱暴に地面に叩きつける。



(てか、あの状態のオレ置いて普通帰るか!?)



 あれから動悸が落ち着くまでずっと床に寝そべっていた。


 ちなみに生徒会室は生徒の機密書類を扱っている為、関係者以外立ち入り禁止となっている。


 他の生徒会の方や先生が来たらこっ酷く叱られていたのもあるが、体調不良の人を放って帰った美姫が信じられない。


 死んでも生徒会になんて入るかと確固たる決意を決め込み、上履きに足を突っ込んで教室に向かう。



(今日はやけに昇降口が賑やかだな)



 人だかりができている昇降口の一角に視線を巡らせて納得する。前行った中間考査の結果を貼り出しているのだ。


 結果が気になる正臣だったが、あまりの人混みと朝の低血圧に負けてあっさり諦めた。


 成績を貼り出すのは構わないが、全学年の成績を昇降口に一斉に貼り出すのはいかがなものかと思う。混雑とか考えないのか。実力至上主義の桜花らしいと言えばらしいが。



「おっ! 伏見君だ!」



「今回も一位だぞ! 入学からずっと一位じゃね!?」



「さすがだね!」



「あ、ありがとうございます......」



 声をかけてくれた見ず知らずの先輩なのか後輩なのか、はたまた同級生なのかもわからない人に軽く頭を下げる。



「伏見君は『白ブレザー』の誇りだね!」



 湧き上がる『白ブレザー』の生徒と、そんな正臣まさおみに明らかな敵意の視線を向ける『臙脂えんじのブレザー』の生徒に正臣の口からため息が漏れる。


 桜花学院には二つのブレザーが存在する。


 正臣のように高校から途中入学した『白ブレザー』と幼稚舎から桜花に通う、筋金入りの金持ち達、『臙脂のブレザー』だ。


 気にしていない人は気にしていないが、白ブレザーと臙脂のブレザーは事ある事に衝突する為、正直辟易へきえきしている。それに今回も巻き込まれた形だ。



「白ブレのくせに生意気な......」



「はっ! いつも偉そうにしてるくせにそんな事言うのか? だっせぇ」



「んだと!? 言わせておけば調子に乗りやがって! よく見ろっ! 一位はそいつだけじゃないぞ!」



 臙脂のブレザーの生徒の指差した方に正臣も視線を向ける。



(やっぱりあいつも一位だったか)



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