7-1.ダンスパーティーへご招待



 他の学校のことは知らないが、桜花おうか学院はほかの学校より校内イベントが多いと思う。


 間違いなく上流階級と呼べる政財界せいざいかい子息令嬢しそくれいじょうの集うこの学院には、学生同士の交流をうながすイベントが多数用意されている。


 今回開催される、ダンスパーティーもその内の一つだ。



「......あーあ、マジでやってらんねぇ」



 誰もいない生徒会室で発注書の山を手でまさぐり、内容をパソコンの表計算ソフトに入力した正臣は大きく嘆息たんそくした。


 美姫にはめめられたお茶会から約二週間。


 生徒会のパシリとして荷馬車の如く働き詰めた結果、今夜開催されるダンスパーティーの準備はとどこおりなくなく完了した。


 完了はしたんだが、疲労感がえげつない。


 よく聞く社畜ってのはこんな感じなのだろうか。そう考えると将来が明るくなくて軽く落ち込む。



「伏見くん、どうもお疲れ様でした」



「会長......」



 ふんわりと漂うコーヒーの香り。


 笑顔を向ける結衣が銀のトレイを持って正臣の方にやってきた。

 

 銀のトレイの上に置かれたコーヒーカップから柔らかな湯気が立ち込めている。



「会長、まだこちらにいらしたんですか?」



 主催である生徒会役員の皆さんは美姫を含め、全員既に会場入りしていると思っていた。


 トレイを机に置いてコーヒーカップを差し出した結衣は、いぶかしむような視線を送る正臣に不満げな表情を向けた。



「お仕事を押し付けるだけ押し付けてさようならなんてことお姉さんはしません!」



 腰に手を当ててぷりぷりと怒る結衣の顔が迫ってきて思わず心臓が跳ね上がる。


 九条院結衣は全校生徒の誰もが認める超絶美少女だ。


 肩の辺りで切り揃えられた明るい髪、優しさで満たされたおっとりとした美しい容姿。


 これで文武両道、誰にでも優しいって言うんだから天下の桜花の生徒会長に選ばれるのも頷ける。


 欠点を挙げるとすれば、誰にでも優しい分、人との距離が近過ぎることだ。



「どうしたの?」



 並の男なら自分に気があるんじゃないかと錯覚してしまいそうな距離で小首を傾げる結衣から席を立って距離を取り、時計に視線を向ける。



「会長、でももう五時半ですよ? そろそろ本当に会場入りしないとまずいんじゃないですか?」



 生徒会長である結衣は1時間半後に始まるダンスパーティで開催挨拶という大役があるというのに、まだいつもの制服姿だ。


 ダンスパーティというだけあって、参加者は皆ドレスやらスーツなどフォーマルな格好で参加するしきたりになっている。



「そうね。そろそろ準備しなくちゃなんですけど。伏見くんはどうするの?」



「え、オレですか?」







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