6-3.お茶会 in 生徒会室




「言い出しっぺの会長がまだ来ないなんて、珍しいなと思いまして」



「ご馳走様でした。美味しかったです」



 名残惜しいが手を合わせて高級洋菓子とコーヒーに別れを告げて席を立つ。

 

 会長、九条院結衣くじょういんゆいには出来れば遭遇したくない。


 一刻も早くこの場を去りたいなのにかばんがない。


 ニヤリと笑う隠した犯人であろう、優雅にコーヒーカップを傾ける美姫を睨む。 



「ハメやがったな......」



「正臣くんが淹れてくれたコーヒー、とっても美味しいです」



 美姫がコーヒーカップをソーサーに置くのと同時、背後の生徒会の扉が開いた。



「あらいい香り。もうお茶会始まっているのかしら?」



 現れたのはおっとりとした品のある声の主、九条院結衣だ。


 無駄と知りつつ、正臣は先程コーヒーカップを持ってきた際に使った銀のトレイを使って顔を隠す。



「結衣さん、お願いされていた男手確保しました」



「ありがとう美姫ちゃん」



 正臣の耳に届くローファーが絨毯じゅうたんこする音が次第に大きくなっていき、ついに顔をおおうトレイに白くて細い指がかかる。



「いつまでそうやってるのかしら、伏見ふしみくん?」



「......こんにちは、会長」



 トレイを退かされた先で微笑む結衣に観念したように挨拶する。

 


「また今回も伏見くんが生徒会の仕事手伝ってくれるのかしら?」



 前に手伝ったのは忘れもしない半年前の卒業式。


 美姫を含む他の生徒会メンバーに庶務という名の壮絶な雑用を押し付けられた。


 あまりの激務にその後風邪をひいて数日間寝込んだ事を思い出す。



「前手伝ってくれた時はもうやらないって言ってたと思うんだけど......」



 不安の色をにじませた表情を浮かべる結衣に正臣が全力で首を縦に振って肯定すると、その間に美姫が割って入ってきた。



「大丈夫です。正臣くん、対価として美味しくお菓子を召し上がってくれましたので」



「まあ。そうだったの? それなら安心して頼めるわね」



 不安げな表情をパッと花の咲いた様な笑顔に変えた結衣から視線を逸らして美姫を睨む。



「おい汚ねぇぞ!」



「事実じゃないですか」



 そう言われるとぐうの音も出ないのでとりあえず断固抗議の視線を席に戻って優雅にコーヒーカップに口づけする美姫に向ける。



「あら、美姫ちゃんがコーヒー? 珍しいわね。苦手なのに」



「え、そうなの?」



「......会長」



「この香り......ちゃんと豆を挽いて淹れたのね。誰が淹れたの?」



「あ、オレです」



「ははぁ〜ん」



 妙に大人しくなった美姫に目を細めた結衣が視線を向ける。


 素早い動きで美姫の横に移動するとひじで美姫の肩をぐりぐりし始める。



「な、なんですかっ......」



「それは、コーヒー飲んじゃうわよねぇー」



「っ......」



「んもぅ可愛い! 伏見くん! お姉さんにも同じものを淹れてくれるしら?」



「あ、はい。いいですけど......」



 やけにテンションの上がった結衣と俯いてコーヒーカップを見つめる美姫に首を傾げて正臣は再びキッチンに戻った。


 その後結衣のコーヒーを淹れて戻ると、「正臣くん、手伝い確定です」と不機嫌そうな美姫に告げられるのであった。


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