6-2.お茶会 in 生徒会室




「こう言うのを職権濫用しょっけんらんようって言うんだろうな」



「はい。職権濫用ってやつです」



「認めるんかい」



 隣にたたずむ美姫にジト目を送ってから相変わらず異様な重厚感を放つ生徒会室のテーブルに視線を落とす。


 テーブルの上にはクッキーやチョコレート、さらにはマカロンといった、様々な洋菓子達が所狭しと置かれている。



「冗談です。実はこれ、期限切れが近い接客用のお菓子なんです。捨てちゃうのはもったいないでしょう?」



「まあ、そうだけど......」



 よく目を凝らせば、庶民の正臣でも知ってる有名高級洋菓子がちらほらと散見された。



「正臣くん今日はお疲れのようでしたので、お呼びしちゃいました。ちょっとしたご褒美と思って付き合って下さい」



「......なんか裏ないか?」



「信用ないですね。ないですよー」



 妙に伸ばした語尾と視線を泳がせる美姫に違和感を覚えたが、例の裁判で昼食すらとれなかった正臣には机の上で魅惑みわくの魔力を放つ高級洋菓子の誘惑には勝てそうになかった。



「後は飲み物ですね。紅茶かコーヒーどちらが好みですか?」



「......コーヒーで。あ、オレも手伝うよ」



「ありがとうございます。それじゃあ準備しましょうか」



 私はお紅茶にしますね、と告げた美姫について生徒会室にある簡易的なキッチンへ移動する。


 美姫が開けたキッチンに備え付けられた棚の中を覗き込んで思わず声が漏れる。



「すげぇなこれ......」



 メジャーどころのモカやキリマンジャロ、高級と名高いブルーマウンテンが置かれているだけでなく、各種様々な焙煎ばいせん度合いの豆がそろっている。


 とても高校生がたしなむラインナップではない。



「正臣くん、コーヒーに詳しいんですか?」



「人並み以上にはな。もうちょっと中見ていい? てか好きなの飲んでいいの?」



「はい。いいですよ」



 はしゃぎ過ぎたのか、クスリと笑われたのがしゃくだが今はそれどころじゃない。


 唯一の趣味がコーヒーである正臣からしたら宝物庫に見える棚の中を物色し、目ぼしい豆をチョイスする。



「オレこれにするわ。美姫は紅茶だっけ?」



「私もコーヒーにします。目をキラキラさせる正臣くんを見てたら私も飲みたくなってしまいました」



「......あっそ。同じ豆でいいのか?」



「はい」



 笑顔で肯定した美姫から顔をそららし、コーヒーポットを火にかけて棚に置かれていたコーヒーミルを取り出して豆をく。



「へー。手慣れていますね」



「毎日飲んでるからな」



 お湯が沸騰する前に火を止めて、コーヒーサーバーの上にセットしたドリッパーにお湯を注げば、黒くかぐわしい香りのするコーヒーが抽出される。



「ちょっと蒸らせば完成だ」



「はい。ありがとうございます。ではコーヒーと一緒にお菓子をいただきましょう」



 お菓子の並ぶ机に戻って改めて豪華な洋菓子に目を向けると、思わずこくりと喉がなった。


 悩んだ結果、最初の一つはホワイトチョコレートに決めた。


 かじった瞬間口いっぱいに広がった甘さを、先程淹れたコーヒーの苦味で流し込む。



「美味い」



「それはよかったです。にしてもおかしいですね」



「何がだ?」



 あっという間にホワイトチョコレートを溶かし終えた正臣は、次は何にしようかと品定めするように机を眺める。



「いえ、接待用のお菓子、今日みんなで食べようって会長と話してたんです」



 美姫の発言に、マカロンに伸ばしかけていた手がピタリと止まる。


 会長。


 その言葉に背筋に悪寒が走ったのがわかった。

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