10-2.こうやって一緒に踊るのは、正臣くんだけですよ




「なんの!?」



 何かした!? と戸惑いの表情を向けた先の美姫にちろりと真っ赤な舌を突き出される。



「それがわからないからお返しされるんです」



「ごめん、まったく意味がわからないんだけど」



「はぁ、本当に仕方のない人ですね」



 ふわりと微笑んだ美姫は手を振るのをやめ、その手で正臣のてのひらを包み込むように握りしめる。


 そして、その細くてなめらかな指を正臣の指にからませる。



「お、おい......」



「......黙って下さい」



「ダンスってこんなに指、絡ませるの?」



「......まあ、人によっては」



「あっそ。......なあ美姫」



「なんですか?」



「耳、真っ赤だぞ」



「......正臣くんこそ、胸の鼓動、凄いことなってますよ?」



「うっせぇ......」



 小競り合いを始めた途端、ダンスホールに優雅な音楽が流れ始める。



「一緒に踊ってくれますか?」



「なにを今更。その......リード、よろしくお願いします」



「はい。お任せ下さい」



 大きなエメラルドの瞳を柔らかく細めた美姫に、少しだけ落ち着いた心臓が再び跳ね上がったのを気取られないように一歩踏み込む。



「うふふ。お似合いよ二人とも。お姉さん嬉しいわぁ。がんばって伏見くん、美姫ちゃん」


 

 声を掛けてきた結衣の声を聞いた周り男子生徒達が突如騒ぎだす。



「あれ、伏見なのか!?」



「伏見って、二年の白ブレで学年主席の?」



「早乙女さん、今まで誰とも踊らなかったのになんであんな奴と......」



 怨念じみた男子達の視線。正臣の胸に頬をうずめて目を合わせる美姫がクスリと笑う。



「大人気ですね、正臣くん」



「......誰のせいだと思ってる......この後みんなと踊ってやれよ?」



 少しでも男子達の溜飲りゅういんを下げてやらないと、この後正臣がどうなるかわかったものじゃないのだが、腕の中の美姫はプイッと正臣から目を逸らす。



「イヤです。私、男性と踊るの嫌いですから」



「じゃあなんでオレのこと誘ったんだよ」



「正臣くんのばか」



「はあ?」



 なんでバカ扱いされなきゃならんのだと目を細めた途端、美姫のステップが急加速する。



「.........こうやって一緒に踊るのは、正臣くんだけですよ」



「え、なんて言った!? ちょっと! 激しいって!」



「ふふっ。黙ってないと舌噛みますよ?」



 なぜか上機嫌そうに微笑んだ美姫の激しいステップに置いていかれないように、正臣は身をゆだねつつ必死にらい付いた。





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