15-2.誓い




「正臣くんには正臣くんの人生がある。色んな可能性がある。なのにそれを、私が全て奪ってしまう」



 両手で顔を覆った美姫の悲痛な叫びが胸を貫く。



「私は、早乙女家の一人娘です。次期総帥と周りから言われてます。私には早乙女家を捨てることは出来ません......」



「そんな私と一緒にいれば、正臣くんの夢や希望を全て私に......早乙女家に踏み潰されてしまう。桜花学院の外の大学に進学する事も、さっき話した喫茶店のオーナーになることもできません」



 顔を上げた美姫の瞳から溢れる涙は止まらない。なのにまた無理やりに正臣に笑顔を作って見せる。



「私は、正臣くんが大好きです」



「この想い、最初は叶わなくてもいいと思ってました。最初で最後の恋として胸の奥にそっとしまっておくつもりでした」



 でも、と呟いた美姫が倒れ込むようにひたいを正臣の胸元に押しあてる。



「抑えきれないんです......正臣くんと一緒に居ると......話していると、楽しくって、嬉しくて......どんどん好きになってしまうんです。みのっちゃいけない恋なのに、離れなきゃいけないのに......」



 震える美姫の背中に手を回して抱きしめる。


 人は、好きってだけじゃ一緒にはいられない。


 前、凛子に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。


 しばらくの沈黙。


 正臣の胸を押して離れた美姫はもう泣いていなかった。



「あーあ、少女漫画やドラマみたいに、あんな風に駆け落ちできたらいいのに......なーんて、思ってしまいますよね」



 戯けるような美姫の声。ふざけたようにちろりと真っ赤な舌を出して笑う。



「......だからね、私正臣くんに伝えなきゃいけない事があるんです」



 もう、無理やり笑わないでくれ。そんな顔しないでくれ。胸が苦しくて張り裂けそうになる。



「私たちは、一緒に居るべきではないと思うんです。だから......あなたのっ......気持ちには応えられませんっ......」



「もういいから」



 声と同時に身体が動いていた。


 抱きしめた美姫の身体は小さく震えていた。


 もう、何も言わなくていいから。


 だからそんな苦しそうな顔、しないでくれ。



「だって、だってぇ......私といたら正臣くんが不幸になっちゃう......そんなの私、イヤです......」



「お前と一緒にいないほうが幸せなんて、勝手に決めつけんなよ」



「だって......」



「だってじゃない。オレの中じゃもう、覚悟は決まってんだよ」



 将来の夢、希望、進路。


 そんな抽象的なもの、今となってはどうでもよくなってしまった。



「やりたい事ができたから」



「やりたい、事?」



「ああ。やりたい事。今さっき出来た、思い付きみたいなものなんだけどな」



 胸から引きがしてキョトンとする美姫に微笑む。



「喫茶店のオーナー」



「......じゃあやっぱり私と一緒には......」

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