10-2.好きにならないはず、ないじゃないですか




「えー。まだ隠すの? もうバレバレだから諦めなってー。そもそもそれがバレたからこうなってるんでしょー?」



「.........まあ、そう、なんですけど......」



 焼けたみたいに熱くなってしまった顔を手であおいで、テーブルに置いてあるポットからジャスミン茶を結衣の分と一緒にそそいでひと口含む。



「ありがと。しっかしまー、こんな純粋ストレートな美姫ちゃんの一途な想いに気づかないのは、愛しの伏見くんくらいよねー」



「うっ。そ、それはそれで.........複雑です」



「ま、あんまり気にしないことね。私の家でも一般の人といい感じになってるなんて知れたら、これと似たようなことになっちゃうだろうし。ほとぼりが冷めるまではジッとしてた方がいいわ」



「あ、あのっ。正臣くん、あの後どうでしたか? その......なにか言ってませんでしたか?」



「えー、どうだったかなぁー?」



「なんですかその顔!」



 何か言ってたんですね、とニンマリ顔を作った結衣に詰め寄ってみるが、急に聞くのが少し怖くなって思わずうつむく。



「どうしたの?」



「......知りたいんですけど、なんか聞くのが怖くなってしまって。だって私が正臣くんなら絶対引きますよ。急にあんな大勢で詰めかけて連行されるなんて......」



 声が震えそうになる声を必死に堪える。目頭が熱い。


 顔は上げられない。


 上げたらきっと涙がこぼれてしまう。


 嫌われたくない。また話したい。一緒にいたい。彼の淹れてくれるコーヒーを飲みたい。


 それがもうできなくなるんじゃないかと思うと、胸が張り裂けそうになる。


 せきを切ったよう溢れ落ちる涙がぬぐっても拭っても止まらない。



「大丈夫。大丈夫だから。ね?」



 おおわれるようにかぶさる優しい温もり。


 あやすような結衣の優しい声に不安で完全に気持ちが折れてしまった美姫は、彼女の胸にもたれ掛かる。



「結衣さん......正臣くんに嫌われちゃったらどうしよう......」



「全くー。本当に伏見くんのこと好き好き過ぎるぞー?」



「......はい。好き好き過ぎます」



「か、可愛い。思わずお姉さんキュンとしちゃった」



 きゅん、とおどけるような声をした結衣の胸から離れて泣き顔を見られないように顔を逸らす。



「正臣くんは私にとってのヒーローなんです。いつもやる気のない顔して、面倒くさがりのくせに、困った時はいつも助けてくれる。そんなの好きにならないはず、ないじゃないですか......」



「全くもう。そんなに好きで不安なら電話でもすればいいじゃない。スマホ没収されてるの?」



「いいえ。されてないです」



「じゃあなんで?」



 首を傾げて尋ねる結衣に、なんだが恥ずかしくなってモジモジしてしまう。



「.........その、正臣くんの電話番号知らないんです」



「ええっ!? 出会って1年ぐらい経って、あんなに一緒にいるのに!? そういえば、ボランティアの案内も私から伏見くんに連絡してくれって言ってたわね!」



 そういうことかー、と驚く表情をする結衣に、また顔が熱くなってしまう。



「し、仕方ないじゃないですかっ。ずっと聞こうと思ってたんですけど、いざ聞こうと思うと恥ずかしくって......そうこうしてる間にその......聞くタイミングを逃しちゃったっていうか......」



 聞こえているのか不安になる声のトーンでつぶいてうつむくと、結衣の大きめのため息が聞こえた。



「なら私ので電話する?」





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