9-2. Shall We Dance?




 美姫に背を向けて会場を後にしようとした正臣のてのひらを美姫に捕まれる。


 振り向いた先にいた美姫が今度は暗がりでもはっきりわかるほど顔を真っ赤に染めている。


 そんなせわしく変わる美姫の表情に、正臣は思わず吹き出してしまう。



「お前、顔の表情コロコロ変わり過ぎ」



「......うるさいです。今日の正臣くん、正臣くんのくせに生意気です」



「そりゃ、どういう意味だ?」



 美姫の発言に思わず顔をしかめる正臣だったが、そんな事お構いなしに手を握ったまま美姫が顔を覗き込んでくる。


 まだ赤く紅潮こうちょうする白いほほ、揺れる大きなエメラルドグリーンの瞳に射抜かれた正臣の心臓が、思い出したように再び大きな鼓動を打ち始める。



「......まだ、帰らないで下さい」



「なんでだよ」



 スーツの袖をくいっと引っ張って上目遣い気味に見上げる美姫の顔を直視出来ない。



「せっかくダンスパーティーに来たのに、一曲も踊らないつもりですか?」



 逸らした視線の先に伸びた美姫の白い腕。



「帰る前に私と踊ってくれませんか?」



 今まで一度も見せたことのない、羞恥しゅうちにじませた美姫の顔。


 手を取ってあげたい気持ちは山々なのだが、正臣は首を横振った。



「ごめん。踊り方知らないんだわオレ......」



 一緒に踊れば美姫の足を踏む自信しか無い。


 差し出す美姫の手を見つめたままいると、無理やり美姫に手をつかまれた。

 


「大丈夫です。私がエスコートしますので」



「......そういうことは、男が言うものでは?」



「仕方ないでしょう? 正臣くん、踊れないんですから」



 正直踊りたくないのだが、ここまで言われて断る根性は持ち合わせていない。



「わかった。じゃあ、よろしくお願いします」



 おどけるように肩をすくめた正臣は、激しく高鳴る胸の鼓動が繋ぐてのひら越しに美姫に伝わらない事を祈りながら、光り輝くきらびやかなホールに美姫と共に再び足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る