12-2. 幼馴染 vs お嬢様 リターンズ




「なんでそう思われないのか逆に聞きたいんだけど」



「いやいや、オレ庶民だぞ? そしてあいつは生粋のお嬢様。つまりありえんだろ」



「はあ。正臣はわかってないなー」



 どうやら気に入ったフライパンを見つけたらしい凛子が、明らかに呆れた表情で正臣に向かってため息をく。



「あの人さ、正臣の前でしか笑わないよね」



「そうか? そんなことないと思うけど」



「ははっ。本当、正臣は相変わらずだね。全然中身変わってないや」



 悲しむような寂しいような何ともいえない表情で凛子に肩をすくめられる。



「これならあたしにもワンチャン、あったりするのかな?」



 不安げな、今にも泣き出してしまいそうな揺れる瞳に幼い頃の記憶を呼び起こされる。


 昔、泣き虫だった凛子。


 泣きつく凛子をなだめるために、よくこうしてたっけ。



「何だよワンチャンって。なにが言いたいかわからんが、とりあえずそんな顔すんな」



 てのひらから伝わる体温。香るシトラス。


 置いた掌を黒くしなやかな髪に滑らせ、優しく撫でる。


 こうやって頭を撫でていると、昔を思い出して懐かしい気持ちになる。



「もう大丈夫か?」



 撫でるのをやめると、されるがまま大人しくしていた凛子がうついていた顔を持ち上げる。



「......正臣はさ、昔からこういうところが卑怯なんだよ......」


 

 ほんのり朱色がさした凛子の頬。


 よく考えれば、公然の場でかなり恥ずかしい事をしている事に気づいて、顔が熱くなる。



「卑怯ってなんだよ」



「......正臣のばーか。もう昔の泣き虫じゃないよーだ。さ、お会計いこ!」



 正臣の掌から逃れた凛子は、さっきと打って変わって笑顔に変わっていた。



「忘れ物、やっぱり諦めなくてよかった」



「え?」



「なんでもなーい。さー次のお店行きましょー!」



「え、まだ他の店行くの?」



「当たり前でしょ? 新生活始めると色々入り用なの。頼むわよ、荷物係さん」



「まじか......」



 お会計を終えて次のお店を目指して歩き始めた凛子にげんなりしていると、前から見知った二人組がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。


 休日なのに、何でこんなに知り合いに会うのだろうか。


 人目を惹きつける高貴なオーラをまとう二人を見つけて肩を落とすと、あちらも気が付いたのか、はたと目が合う。








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