第二章
1-1.オレのことは放っておいてくれ
夏休み初日。
普段と変わらぬ朝七時に起床した正臣は、地元の図書館のお気に入りの学習スペースで参考書を広げていた。
朝一に入館すると無料でもらえるコーヒーを一口含んで、一息つく。
このエアコンが効いた中で飲むホットコーヒーが
充実した休み。
昨日、美姫と結衣から逃げ切って本当に良かったと心の底からそう思う。
「なんだか嬉しそうですね」
「ああ。とっ......ても?」
胸の辺りにスッと冷気が通り抜けた。
今、一番聞きたくない声。
さっきまで心を満たしていた温かな充実感があっという間に冷たいものに変わっていく。
声のした隣の席に顔を向ける。
そこにいたのはやっぱり、美姫だった。
「おはようございます。正臣くん」
「......なんで、ここに、お前が、いるんだ?」
笑顔で手を振る浮世離れしたブロンドの髪の少女に出来うる限りの怒気を込めて問いかけるが、全く気にしていないようで、透き通った笑顔は全く崩れることはなかった。
「なにって、正臣くんに会いにきたからに決まってるじゃないですか」
「いやそうじゃない。なんでオレがここにいるって知ってんだよ!」
少し声が大きくなってしまって、他の利用者から
ここは桜花学院から電車で一時間以上離れた正臣の地元の図書館だ。
当然美姫にこの場所のことは教えていない。
どうやってこの場所を突き止めたのか、
この学習スペースは前日までの予約制。
勝手に席に座るのは御法度なのだ。
「おい美姫、その席は予約制だ。勝手に座ってると司書さんに怒られるぞ?」
「そうですね。でも大丈夫です」
「え?」
「ここ、私が予約している席なので」
「はあっ!?」
しっ、と唇に人差し指を当てて微笑む美姫が流石に怖くなる。
「簡単な話ですよ。正臣くんの地元は白壁さんから聞けばわかりますし、この辺りには図書館は一つしかない。それに言ってたじゃないですか、夏休みは図書館に通うって」
確かにそんなこと夏休み前に美姫と話した気がする。
「後は、図書館の予約履歴を確認して、夏休み中ずっと予約されていて、九月から空席になっている席の隣を予約すればこの通りって事です」
そんな席一席しかありませんでしたよと、笑う美姫の姿が正臣のこめかみをピクリと引きつらせる。
「言われてみれば、わかるっちゃわかるんだけど、それでもやっぱり怖いんだが......」
「仕方ないじゃないですか。こうでもしないと、正臣くん捕まえられないですから。それに」
机に伏せた美姫が横を向いてチラリと視線を向ける。
「夏休みでも、会いたいじゃないですか」
「正臣くんは、違うんですか?」
「別にオレは......会えても会えなくてもどっちでもいいっていうか......」
「ふふっ。素直じゃないですね」
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