13-2.伏見家再び




「なるほどねぇ。とりあえず内容は理解したわ」



 櫻子がリビングのソファで缶ビールを勢いよく傾ける。


 片膝を立てつつ、お酒のせいか少しだけとろんとした目をした櫻子は、手に持つ缶を左右に振ると、めんどくさそうに席を立った。


 どうやら新しいビールを調達するらしい。


 先ほど対峙した母親とは大違いの態度に、あきれるのと同時に、少しだけ安心する。


 隣で行儀よく座る美姫は、そうでもないようだが。



「ちなみにさ、桜花学院だし、早乙女ってまさかと思うけど早乙女財閥と関係してたりするの?」



「ああ。その早乙女財閥の一人娘だよ」



「は、はい......」



「ふーん。じゃあ生粋きっすいのお嬢様ってわけだ」



 そうは言いつつも、ソファに戻った櫻子の興味は美姫ではなく冷えた缶ビールにそそがれており、プシュッと小粋な音を立てて開けたそれを一口煽あおって、美味そうに顔を歪めた。



「そんな生粋のお嬢様の前でおっさん臭いことしないでくれる?」



「ごめんごめん。まあ私としては別に何日泊まってもらっても全然構わないんだけど、それじゃなんにも解決はしないわよ?」



「わかってる。その辺はちゃんとするよ」



「ちゃんと、ねぇ......」



 櫻子が言いたいことは理解しているつもりだ。


 このまま和葉さんと仲違たがいしていても仕方ない。


 和葉は、美姫のことを大切に想っている。


 去り際に向けられた強い眼差しが今も脳裏にこべりついて離れない。


 和葉は敵じゃない。


 時間はかかるかもしれないが、ちゃんと説明して理解してもらうつもりだ。



「ま、そういうことなら母さん、なんも言わないわ」



「おう」



 伏見家の親は父も母も基本的に放任主義だ。


 今回の件もちゃんと話せば正臣に任せると言ってくれる自信があった。


 だが今日の櫻子は流石にそれだけでは終わってくれないようで、ニヤニヤとした表情で正臣と隣に座る美姫にいかにも興味津々といった視線を向けてくる。



「あの正臣がそんな男らしい発言するなんてねぇー」



 からかうような櫻子の視線から逃れるように目を泳がせる。



「う、うっさいな......」



「そんなに早乙女さん......いや、美姫ちゃんのこと好きなの?」



「は、はあっ!?」



「今更隠すなよー。ねね、どうなの美姫ちゃん?」



「は、はいっ!」



 急に名前を呼ばれてピクンと跳ねた美姫はやはり緊張しているようだ。


 顔も真っ赤だし、視点もキョロキョロと定まっておらず面白い。


 いつもクールな美姫がこんなに焦っているのを見るのは新鮮で、後でイジってやろうと考えていると、彼女の唇がわなわなと動き出した。



「ま、正臣くんは、そのっ、私のこと、好きって言ってくれました」



「はっ!? お、おい美姫!?」



 親の前でのカミングアウト。


 美姫の不意打ちに、まるで瞬間湯沸かし器のように顔の温度が一気に上昇する。


 美姫を黙らせようと睨みをかせてみるが、効果は無さそうだ。


 ソファに備え付けてあるクッションを顔の前に持ってくると、それをぎゅっと抱きしめる。



「それに私達......キス、しちゃっています......」





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