11-2.オレさ、お前のこと好きみたい
ビルを飛び立って数分後。眼下に広がるのはまるで星空のように無数の光を放つ
夏の夜空の遊覧飛行。
思わず息を呑む絶景に心を奪われそうになる。
この景色に感動しているのは隣の凛子も同じようだ。
「綺麗......」
地上を見下ろす凛子の声がヘッドセット越しに聞こえてくる。
「そうだな」
凛子に答えて正臣は改めて光輝く街並みに視線を落として
高かったビルが今はもう豆粒みたいに小さい。
高度3000メートル。
結衣の付き人曰く、このヘリコプターはそこまで上昇するそうだ。
「本当に大丈夫なのかな......」
ぐんぐん遠ざかっていく街の明かりが正臣を不安にさせ、あの時結衣の作戦に承諾してしまった自分を今更責めていると、ため息を吐いた凛子と目が合う。
「大丈夫じゃないでしょこれ......あたしなら絶対やんない」
正気の
ナイトスカイダイビング。
今からやろうとしているのはそれだ。
結衣によると、早乙女邸の警備は厳重で、庭から侵入するのは不可能だと言う。
地上が無理なら空でしょ、と笑顔で提案した結衣に乗っかってしまい、今に
しかも装備という装備もないのだから驚きだ。渡されたのは唯一ゴーグルだけ。
一緒に飛ぶという結衣の付き人はパラシュートやらなんやらを詰めたリュックを背負っているのだが。
「目標まで残り5分ほどです。ご準備下さい」
ヘッドセットから聞こえた付き人、
緊張で吐きそうだ。
今ではすっかり遠くなってしまった街の明かり。辺りは真っ暗で、さらに不安を
「正臣、震えてる? さすがに怖いよね......」
「そりゃ、まあ......」
どうやらヘッドセット越しに不安が凛子に伝わってしまったようで、震える手が凛子の温かい
「大丈夫。絶対上手くいく。根拠はないけど」
「ありがと」
「......あーあ。本当はさ、スカイダイビングで助けに行くなんて正直ロマンチック過ぎて、あんまり応援したくないんだけどなー」
肩を竦めた凛子の真剣な瞳が正臣に突き刺さる。
「でもきっと、あたしが早乙女さんの立場なら、多分寂しい思いしてるだろうから今回だけは特別に応援してあげる」
「......相変わらず素直じゃないな」
凛子も美姫が連行される現場を見ていたし、本当はきっと心配しているのだろう。でなきゃ、こんな所まで付き合わない。
現に正臣の言葉に照れたような表情になった凛子は「うっさいわね」と言って顔を逸らした。
「そろそろお時間です。白壁様はハーネスを機体に固定させて頂きます。扉を開けると強風が吹き込みますのでご注意下さい」
副操縦席から後ろの席に移動してきた東郷が頷く凛子の
「それでは伏見様。失礼します」
飛ぶ前の準備は思ったよりも簡潔で、東郷の背負うリュックから伸びたベルトを何本か正臣に巻きつけただけで完了してしまい、本当にこれで大丈夫なのかと心配になってしまう。
「それでは行きますよ」
開かれたヘリの扉。
瞬間、吹き込む突風に身体がぐらつく。
覗き込んだドアの外。広がる漆黒の世界。そこに
「あれが早乙女邸です。準備はよろしいですか?」
「は、はいっ!」
さっきから足を何度も叩いているのだが、震えが止まらない。
正直、全然よろしくないのだが、強がって返事をしないといつまで経っても飛べる気がしないので覚悟を決める。
「それでは行きます。ヘッドセットを外して下さい」
「ねぇ正臣! あれから何度もあんたの事諦めようって思ったけど、やっぱさ、諦められそうにないや!」
「え、なに!?」
ヘッドセットを外してしまったせいで凛子が何を言っているのか上手く聞き取れない。
暗がりでもはっきりわかるムスッとした凛子の顔。それが正臣に迫る。
頬に触れた柔らかい感触。
離れた凛子が顔どころか耳まで真っ赤に染めて正臣を睨む。
「はあっ!? おまっ、なにして......」
「やっぱあたし、正臣の事が好き! 大好き!」
爆音の中でも届いた凛子の想い。
「さっさとお嬢様救って帰ってこい!」
「......おう」
笑顔で突き出された拳に正臣も合わせ、付き人東郷と共に暗黒の世界に身を投げ出した。
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