7-1.恋を、しているんだと思う




 一定のリズムを刻む、心地よい波の音。目の前に広がる焼けるような赤い空。


 燃えるような真っ赤な夕陽が海に吸い込まれていく風景はとてつもなく壮観だった。


 こうして海を眺めていたら、あっという間に日が暮れてしまった。


 ボランティア活動を終え、九条院家のプライベートビーチに戻った正臣は誰とも話す気になれず、一人砂浜に座ってボケっと海を眺めていた。


 気持ちの整理をつけようと思ったが、どうやらつきそうにない。


 悶々もんもんと考えている内に時間だけが只々ただただ消費されてしまった。



「ねぇ正臣くん、夕陽が綺麗だと次の日は晴れるって知ってますか?」



 隣いいですか、と尋ねながら正臣の回答を待たずに美姫が隣に座る。


 今は誰とも話したくない。


 そっとしておいて欲しいのに、美姫は断る暇さえ与えてくれない。


 恐らく聞くまでもなく、隣に座るつもりだったんだろう。美姫を無視して絶景に集中する。



「夕日、綺麗ですね」



「.........ああ」



「......正臣くん、なにかありましたよね?」



 赤を反射する、揺れるエメラルドグリーンの瞳。


 眉を八の字に曲げ、不安げな表情を向ける美姫と目が合う。



「どうして?」



「どうしてって......それぐらい、わかるに決まってるじゃないですか」



 バカに......しないで下さいよ、と消えるような声でつぶいた美姫の視線が打ち寄せる白波の方に向けられる。


 別に正臣が単独行動を好むのはいつものことだ。それに一人で散策に出かける前はこの黒い感情が表に出ないよう、普段以上に周りに気を配ったはずだった。


 わかるに決まってる、か。


 なのになんで、わかってしまうんだろうか。別にわかって欲しい訳じゃないのに。


 美姫の横顔から視線をそららして再び海に向ける。


 既に太陽の半分は水平線に飲み込まれ、燃えるような赤焼けの空に紺色こんいろが差し込み始めている。



「今はさ、ちょっと放っておいてくれないか?」



 その気遣いが、今は辛い。


 暗くなりかけた空に視線を向けたままぽそりと呟くと、隣から大きめのため息が聞こえた。



「......ねぇ正臣くん、初めて私達が話したときのこと覚えてますか?」




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