16-2.シングルベッド




 誘った美姫もさすがに恥ずかしかったのか、正臣に背を向け壁の方を向いてしまうのだが、背中を正臣の身体に押し当てて、正臣の二の腕を腕を枕代わりにしてほほり付けてくる。



「......安心できたのに、正臣くんの心臓がうるさ過ぎて眠れそうにありません」



「悪かったな......」



「これでドキドキされなかったら、逆に困っちゃいますけどね」



 二の腕に頬をグリグリ押し付けながらクスクス笑う美姫。背中越しに自分のものじゃない強い鼓動を感じる。



「お前だってドキドキしてんじゃん」



「そりゃあ......大好きな人とこんなに密着したら、流石の私も照れてしまいますよ」



 寝返りを打った美姫がそっと正臣の唇に人差し指を当ててくる。



「キス、してもいいですか?」



「......ダメって言ったらしないのか?」



「どうでしょう?」



「じゃあダ......」



 話の途中、唇を美姫のそれを重ねられ、言葉をさえぎられてしまう。


 強く押し当てるとそれは自在に姿を変えて、正臣の心を幸せで満たしていく。



「キスって不思議です。ただ唇を重ねてるだけなのに、とても幸せな気持ちになれるんですもん」



 きっと正臣くんとだからですね、と再び正臣の唇に短く落とした美姫が愛おしくて抱きしめる。


 どんどんとりこにされていく。


 本当に、頭がおかしくなるくらい美姫が好きだ。


 こんなに他人を好きになるなんて思いもしなかった。


 明日から想像を超える色々な困難がきっと待ち構えているのだろう。


 それでもこの気持ちが消える事は絶対ないと断言できる。


 彼女と一緒に全て乗り越えていく。


 心の中で誓いを立てると、目の前で微笑む彼女がより一層愛おしくなって、自らより強く唇を重ねてしまう。



「んっ......正臣くん、大胆です......」



「んだよそれ......」



「正臣くんって、女性恐怖症なんですよね?」



「......まあ、そうだな」



「自分からキスする人が女性恐怖症なんでしょうか?」



「そりゃ、彼女は別だろ? それに......」



「それに?」



「恥ずかしいって気持ち以上にお前を感じてたいんだ」



 自分で恥ずかしい事を言ってるのはわかってる。


 ぱちくりとまたたいたエメラルドグリーンが次第に細められ、からかうような表情に変わっていく。



「......仕方のない人ですねぇー。私に骨抜きにされちゃいましたか?」



「......そうみたい」



「ふふっ。素直な正臣くん可愛いです」



「可愛い言うな」



「......ねぇ正臣くん」



「なんだ?」



「ずっと、ずーっと一緒に居てくださいね」



「ああ」



 微笑む美姫の細い指に自分の指を絡めさせて正臣は瞳を閉じた。

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