12-1.早乙女財閥 総帥




「きゃー! 青春よ! 青春!」



 突然上がった結衣の奇声に現実世界に引き戻される。



「ライト当てられてみんなに見られてる中であんなにイチャつける!? お姉さんびっくりなんですけど!」



 まさに興奮さめやらぬと言った声に、美姫とそろってうつむいてしまう。


 冷静に考えれば、とても恥ずかしいことをしていることに気づく。


 正臣の胸の中で上目遣い気味に見上げた美姫も正臣と同じ気持ちのようで、赤らんだ頬で眉を弱々しく八の字にゆがめている。



「正臣くん、顔真っ赤ですよ」



「お前にだけは言われたくないんだけと」



「ふふっ」



 はにかむように微笑んだ美姫が再度の胸元に顔をうずめた時だった。



「そこまでです」



 ベランダと部屋を繋ぐ出窓が勢いよく開く。


 真紅の髪。


 怒りをともした鋭い視線が正臣を射抜く。



「まさか内鍵をされるとは思いもしませんでした」



 正臣から結衣に視線をスライドさせた紅緒べにおが舌打ちする。


 会長はというと、とぼけるようにあさっての方を見て素知らぬ顔だ。



「お嬢様、こちらへ」



「イヤです」



「お嬢様」



「紅緒、私決めたんです。敷かれたレールの上じゃなく、自分の意思で生きていく。もうみんなの言いなりにはなりません」



「その男のせいですか」



 美姫がふるりと首を横に振る。



「ずっと心のどこかでつっかえていました。早乙女のために生まれて死ぬだけの人生で本当にいいのかと。彼はそのきっかけをくれただけに過ぎません」



「不幸になりますよ」



「それは誰にもわかりませんし、断言される筋合いはありません。そして、私達はそうならないように共に歩いて行きます。そうですよね? 正臣くん」



「ああ」



 不安がないかと言ったら嘘になる。でもきっと、なんの根拠もないけど、美姫と二人ならなんでも出来る。


 そんな想いを込めて美姫の手を強く握りしめる。



「茶番はもう終いにして下さい」



 よく通る低い女性の声。その声に握り返す美姫の力が強くなる。



「紅緒、下がりなさい」



 紅緒が頭を下げた先から現れたのは、美姫と同じブロンドの髪の女性。



「お母様......」



 呟く美姫の瞳に不安が宿る。


 美人な方ではあるが、美姫より目鼻立ちがくっきりし過ぎており、その鋭い目つきから近寄りがたく、厳しい印象を与える。



「何をしているの。早く家に戻りなさい」



「い、嫌です」



 ひとつため息をついた美姫の母親の視線が正臣にぶつかる。



「伏見正臣さんですね」



「はい」



「私、早乙女和葉さおとめかずはと申します。端的に申します。あなたの存在は早乙女家にとって迷惑です。金輪際、娘に近づかないで頂けますか?」


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