第79話 悪魔の考え
荷物をまとめて学院を出る。
今回、俺と共にゾラ連邦へ行くのは、普段一緒に訓練をしている三人のメンバーだ。
コルネリア、ルシア、シェイラの三人。
こんな大所帯で他国に行ってもなぁ、と最初は思ったが、ほぼ確実に起きるであろうクーデターのことを考えたら人数は多いほうがいい。我先にと馬車に乗り込んだ面子を見て、俺は改めてそう思った。
「楽しみだね、ゾラ連邦。どんな強い奴がいるかな?」
俺が最後に馬車に乗り、馬車は王都の外へと向かった。
ガタガタと揺れる室内でコルネリアがまだ見ぬ強敵に想いをはせている。
「ゾラ連邦にはそこそこの使い手がたくさんいるぞ。特にオーラの使い手が多い」
「そうなの?」
「ああ」
これは公式の設定だ。
ゾラ連邦の住民の半数を占めるのは獣人と呼ばれる種族。この獣人は、鋭い五感に高い身体能力を持つことで有名だが、他にも特徴がある。
獣の本能かどうかは知らないが、どいつもこいつもオーラを使うのだ。ゆえに、ゾラ連邦の大半はオーラの使い手ということになる。
特にウルフ種や獅子といった獣人でも上位に位置する連中はオーラの使い方が上手い。そいつらと戦えれば彼女たちもまた実戦を積めるだろう。
「私はゾラ連邦で使われてる魔法に興味があるわね」
「私もです」
ルシアとシェイラは共に魔法が見たいと言った。
ゾラ連邦で魔法が使える種族はそれほど多くない。水の魔法が得意なマーメイドや、風の魔法を使う鳥人。他にも、魔法と言えばエルフだな。これは外せない。
獣人の一種、鳥人以外のマーメイドやエルフはほぼいないから、彼女たちの好奇心を満たせるかどうかは不明だ。
まあ、どうせクーデターで国内はゴタゴタする。一人や二人くらいはそこそこの使い手とぶつかることができるだろう。
ちなみに俺は、今回のクーデターを止める側だ。主犯格をぶち殺して現国王にお礼をもらう。
個人的にはクーデターが成功したほうが戦争ができて嬉しいんだが、合法的に連中を殺すより合法的に宝を貰うほうが利益があると考えた。
戦争で連中を殺しても、宝はすべて国のものになるしな。それならクーデター主犯格を殺してお礼に貰うほうがいい。法外な条件を突き付けてやるぜ。
「本とかも売ってますかね? 魔導書が私は欲しいなぁ」
「観光するのは勝手だが、決して顔を見られるなよ。嫌な思いをするぞ」
「嫌な思い?」
「ゾラ連邦じゃ人間は奴隷だ。過去にやられたことを考えれば、いきなり手を出して来る輩もいるだろう」
「そんなに酷い思いのしたのね、亜人たちは」
「特に俺がヤバい」
「え?」
コルネリアが首を傾げる。
「どういうこと?」
「実は……数年前、一部の過激な亜人たちが帝国へ領土侵犯をしに来たことがあるんだ」
「思い切ったねー」
なぜか嬉しそうなコルネリア。ルシアとシェイラはあまり興味がなさそうだった。
「その時、千を超える亜人たちが帝国の兵士を次々に殺して回ったらしい。結構な被害だったとか」
「どうなったの?」
ルシアが問う。
「全滅した。亜人たちは」
シンプルな答えを彼女たちに告げた。
「負けていたのに?」
「ああ。その時争いに介入したのが、まだ十代だったノルン姉さんだとさ」
「あ」
三人ともすべてを察した。
そう。彼女はちょうど争いが起きた国境近くで魔物を討伐していたのだ。そこで戦争が起き、多くの犠牲者が出たため国王の命令で戦争に参加した。
結果、ノルン姉さん一人で数百という亜人の命が地面の染みとなり、他のサルバトーレ公爵家の人間や、手練れの援軍も混ざって戦争は圧勝で幕を閉じる。
以来、ゾラ連邦は帝国に対して多額の損害賠償をしたりしなかったりと忙しない。
ぶっちゃけサルバトーレ公爵家がいるかぎりもう戦争は起きないだろうと誰もが思っているが、そそのかされた馬鹿はそれでも戦争を起こす。
原作だと普通に負けるけど、それが発端でゾラ連邦はある問題を抱えることになる。
破滅なんて甘っちょろい話じゃない。もっと悲惨なことが起こる。
それを止め、あるアイテムを入手するためにも、俺は亜人たちによるクーデターを阻止しなくちゃいけない。最悪、全部殺して止めればいいだろ、くらいに思ってはいるが。
「災難だったわねー、亜人たちも。ノルン・サルバトーレが相手だなんて」
「まったくだ」
「でももっと災難なのは、ルカがこれからゾラ連邦に行くことかな?」
「……どうだろうな」
否定はしない。俺はあえてクーデターが起こることを知りつつもクーデターを起こそうとしているのだから。
阻止するのはあくまで保守派の死だけ。数名の国の代表さえ生きていれば他の亜人がどれだけ死のうと俺の計画に問題はない。
それに、恩を売るには問題が起きてもらわないと困るしな。
ククク、と笑いながら全員に今後の話を伝える。
クーデターが発生し、その後自分たちは何をすればいいのかを。
三人とも、俺がクーデターを見逃す件についてはツッコむ素振りすら見せなかった。
さすが俺の仲間。俺のことをよく分かっている。
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