第46話 落下

 俺、ルシア、シェイラの前にドラゴンが現れる。

 幼体ではあるが、さすが最強と名高い竜種。

 その大きさは、人間を遥かに超えていた。


 例え幼体でも凄まじいオーラが漂ってくる。


「あれが学院長の言ってた、鉱山に住み着いたっていうドラゴンか」

「お、大きい……あれで本当に成体じゃないの?」


 背後でシェイラが震えた声を漏らす。

 彼女は完全にビビっていた。


 無理もない。俺でさえ相手の覇気に気圧されている。

 楽しみすぎて胸が張り裂けそうだった。


「まさかそっちから来てくれるなんてね。探す手間が省けたわ」


 俺に背を向け、ドラゴンに狙いを定めたルシア。

 彼女は魔力を練り上げると、強大な魔法を構築する。


「悪いけど先手はもらうわよ!」


 巨大な炎の塊が、ドラゴンめがけて飛ばされる。


 視界を覆うほどの球体だ。さすがにドラゴンもダメージを受けるかと思っていたが、


「グルルル……グガアアア!」


 ドラゴンは口から炎を吐いてルシアの魔法を迎撃する。

 威力は完全にドラゴンのほうが上だった。


 ルシアの魔法をかき消し、波のような炎がルシアに迫る。


「なっ⁉」


 咄嗟に水属性の魔法を構築して防御する。


「私の魔法より威力が上だっていうの⁉」

「へぇ、面白いじゃん」


 ルシアの魔法はただの魔法じゃない。俺でさえ認めるほどの威力だった。


 それはつまり、ドラゴンの幼体が放つブレスは、俺のオーラでも防御が難しいということ。


 直撃したら面倒だな。


 けど、それくらいの実力差があったほうが盛り上がる。

 口端を持ち上げ、にやりと笑うなり俺は魔法を構築した。


 ——複合魔法。


 水と風を混ぜ合わせ、冷気を発生させる。

 氷は氷柱のように尖り、それを無数に周囲に浮かばせた。

 これを当てられればドラゴンの体を凍らせることができる。


 翼に当てれば飛行能力を奪えるだろう。そもそも、あの巨体を飛ばせるほどの力が翼にあるとは思えないが。


 それでもやるべきことはやる。

 連続して氷柱を射出した。


 魔法で作った攻撃は、魔力の操作で軌道を変えられる。

 俺の魔法を避けるのは至難の業だ。


「こ、氷⁉ そんな魔法、存在しないはずなのに……!」


 俺の複合魔法を見たルシアが、ドラゴンそっちのけで驚愕しているのが分かった。


 さっきお前が喰らった火属性の魔法も、風属性を組み合わせた複合魔法だ……と言ったら、話は盛り上がるかな?


 まあそれはあとでいい。今は目の前の敵を殺す。


 結局、ルシアと共闘する形になりそうだった。

 適当なところでルシアの意識を刈り取らなきゃいけない。


「グルアアアアアア‼」


 そうこう考えている間に、ドラゴンは機敏な動きで俺の魔法を回避した。

 ブレスを小出しにして氷を溶かしている。


 器用な奴だな。それに、知能も高い。

 俺の攻撃が熱に弱いことを理解した上で動いている。


「ッ! 空飛ぶトカゲ風情が!」


 なかなかダメージを受けてくれないドラゴンを見て、ルシアが焦れた。

 複数の風属性魔法を構築し、相手の機動力を割きにいく。


 しかし、ドラゴンはルシアを狙った。

 俺より倒しやすいと判断したのだろう。凄まじい速さでルシアの下へ迫った。


 ルシアの魔法を正面から受けてもほとんどダメージを受けていない。そのまま突進し、短期決着を狙う。


「チッ!」


 俺は考えるより先に動いた。

 地面を蹴り、急いでルシアの下へ向かう。


 今ルシアに死なれると、封印指定魔法がパァだ。

 せめて彼女から魔法のことを聞き出さないといけない。


 身体能力の低いルシアは、まさかダメージ覚悟で相手が突っ込んでくるとは思ってもみなかったのだろう。


 完全に反応が遅れていた。


 攻撃が当たる——直前、俺が彼女を抱き上げジャンプする。


「間一髪だったな」


 ギリギリ攻撃を回避した。

 ドラゴンは地面に突っ込み、凄まじい衝撃を発生させる。


 足元が砕け散った。ドラゴンは頑丈だからすぐに顔を上げるが、同時に足元がさらに砕ける。


「?」


 なんだ? と思ったその時。

 地面に穴が開いた。


 どうやら足元にひらけた空間があったらしい。それをドラゴンがぶち抜き、地面が消える。


 現在、俺は宙に浮く形になっている。厳密には、重力に従ってどんどん落ちていく。


 片やドラゴンは翼がある。落ちる前に空へ羽ばたいていった。


「ルカ様!」


 離れた所で戦いを見守っていたシェイラが、届くはずもない手を伸ばす。

 俺は首を横に振った。「心配ない」と彼女に伝える。


 魔法を極めても空を飛べるわけではないが、オーラと祈祷があるからまあ大丈夫だろ。


 そう思いながら、漆黒の穴へと落ちていく。

 最後に、シェイラに向けて叫んだ。




「早く逃げろ、シェイラ——!」




 そして視界は暗黒に染まった。





———————————

【あとがき】

最近なぜかまた伸び始めた!?

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