第84話 怪しい人物
どさ、っとベッドの上に腰を下ろした。
現在、俺はゾラ連邦首都ズゥの街中にいる。そこそこ高級な宿の一室を借り、広々とした空間で息を吐いた。
「拍子抜けするほど簡単に部屋を借りることができたな……」
思い出すのは先ほどの光景。
この宿の店主が、渋々ながらに部屋の鍵を手渡してくれた時のことだ。
改めてゾラ連邦では人間の肩身が狭い。俺が憎き帝国の人間——それも、多くの同胞を殺したサルバトーレ公爵家の者だと分かれば、こんなすんなり部屋を取ることはできなかっただろう。
「身分を隠したのは正解か」
せめてクーデターが起きるまでの間はゆっくりしたい。他に探したい物もあるしな。
「ルカー! いるー?」
コンコン、と部屋の扉がノックされる。
この声はコルネリアだ。
「どうしたコルネリア。荷物は置いたのか」
「うん。ほとんど持ってこなかったしね。それより部屋に入ってもいい?」
「いいぞ」
許可を出すとすぐに扉が開かれた。満面の笑みを携えるコルネリアが入ってくる。
「何しに来たんだ。今日はもう寝るだけだろ」
「まだ夕方じゃん。暇だから遊びに来たんだ」
「何もないが」
「ルカのそばにいるだけでも楽しいよ! オーラの練習でもする!」
「部屋を壊すなよ」
俺の隣、ベッドの上に座るコルネリア。瞼を瞑って俺の肩に頭を置くと、その体勢でオーラを練り上げ始める。
俺は俺でシェイラに借りた本を読む。無論、俺もオーラの練習は欠かさない。
「ねね、ルカ」
コルネリアが話しかけてくる。
「なんだ」
「明日は外に出かけようよ。リスクがあるのは承知の上でね」
「……そうだな。北側にある白亜の塔を見に行く予定だ」
「白亜の塔?」
「街に入った時見なかったのか? 正面奥にあったぞ」
「見てなーい。それってどういう場所?」
「この国の議員たちが話し合う場だな。会議室と言ってもいい」
前世でいう国会議事堂みたいな場所だな。話し合い以外でも使われるらしいが、大事なのはそこにゾラ連邦を束ねる代表者たちが集まるということ。
しかもこの時期は、ちょうど代表選挙みたいなものが始まる。各種族の中から投票を募り、現代表を変えるかそのままにするか、そういう話し合いが行われる。
確か原作だと数名の代表が別の者に変わっていた。そいつらこそが今回のクーデターの首謀者。
せっかくだから顔くらい見ておきたいが、さすがに会うのは難しいかもな。
「そんな所に行っても面白くないんじゃない?」
「コルネリアには面白くないだろうな。俺には目的があるから平気だ」
「ふうん。クーデターに関係してるんだ」
「まあな」
たまにコルネリアは鋭いところがある。
「別にお前たちはお前たちで好きに遊んでていいぞ。迷惑かけなきゃな」
「ん~……ルシアたちと遊んでもあんまり面白くないし、私はルカと一緒に行くよ」
「そうか。なら、情報集めを手伝ってもらう」
「お任せあれ」
コルネリアは嫌がる素振りを見せない。健気に俺の指示に従ってくれる。
明日……面白いことが起こるといいな。
そう思いながら、その日はコルネリアと静かに過ごした。
▼△▼
翌日。
当然のように俺の後ろを全員がついてきた。
「あれがこの国の代表が集まる場所かぁ」
前のめりに体を突き出して、俺の隣でコルネリアが呟く。
「警備がずいぶんと厳重ね」
「無理もありませんよ。あそこはゾラ連邦の象徴と言ってもいい場所ですから」
「後宮みたいなもんだな」
「それで? ルカはこんな所に何の用があるのかしら」
ルシアの問いに短く答える。
「クーデターの前にざっくりと地形を確認しておきたかったんだ」
「地形?」
「どういう風に壁が伸びているのか。どういう建物なのか。侵入経路なんかも外観から分かる部分はある。それを見に来た」
「言ってることがクーデターを企む側なんだけど」
「まああえて見逃すしな。似たようなもんだろ」
ゲームをプレイしている時はあまり気にもしなかったが、改めて確認するとなかなか面倒な造りをしている。
建物の周りにはたくさんの警備担当の亜人が。あの中を素通りするのは骨が折れるな。
「わたくしが侵入して殺してきますよ?」
「殺すのが目的じゃないわよ、馬鹿悪魔」
頭上で俺にしか聞こえない声で争う二人の……なんて言えばいいんだろうな。幽霊?
とにかく、リリスもアスタロトもぎゃあぎゃあ騒がないでほしい。最近はめっきり姿を見せていなかったのに急にどうしたんだ?
この辺りに彼女たちが反応するものがあっただろうか。
適当に記憶を漁りながらコルネリアたちと歩き始める。建物の側面を見るために。
すると、その途中で面白い人物を発見した。
ゲームで見たクーデターを企む側の亜人だ。フードを被っているが、珍しいライオンの顔はそうそう忘れない。
あいつも俺と同じ目的かな? ちょうどいいし、あとでも追いかけてみるか。
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