第81話 愚か者
「あはははは!」
馬車の外でコルネリアの笑い声が響く。同時に、もう一つの声も聞こえた。
「ぎゃああああ⁉ う、腕があああああ!」
男の声だった。
別に俺の知り合いでもなければ友人でも家族でもない。ただ、俺が乗っていた馬車を襲おうとしていた賊だ。
そういう意味だと知り合いという認識になるのかな?
「ほらほら~、もっと頑張って剣を使わないと死んじゃうよ~?」
「……楽しそうね、あの皇女様」
扉に付いている窓越しに外を眺めていたルシアが、ボソッと呟いた。
「コルネリアは弱者を甚振るの好きだからな」
「それでいいの? 変な癖付きそうだけど」
「そこは俺が矯正する。問題ない」
「あっそ。でも気持ちは分かるわ」
ふっと笑って彼女は続けた。
「私も弱者は死んでいいと思ってるしね」
「過激だな」
「あんたもそうでしょ。もちろん平穏に生きてる弱者は興味ないけど、力を振りかざそうとする弱者は死ぬべきじゃない」
「まあな」
それは一理ある。弱いくせに迷惑をかける奴は本当に死んでくれ。
「どうせだったら私も混ざってくればよかったかなぁ」
「やめとけ。お前まで言ったら馬車が壊れるだろ」
「コントロールできますよー、だ」
「心配だ」
ルシアは興奮するとどんどん魔力出力を上げる悪癖がある。
普通に戦うんだったらギアが上がる分には問題ないが、下手に馬車を壊されたら徒歩でゾラ連邦の首都まで行かなくちゃいけない。それは面倒だ。
「ああ言えばこう言う。一言余計よ、ルカ」
「それよりコルネリアのほうも終わりそうだな。一度外に出るか」
窓の外では、必死に命乞いする賊の首を容赦なく斬り飛ばしていた。残りの数も少ない。
そうそう、敵対した者には理由なく慈悲をかけちゃいけない。生かす価値もないなら何を言われても殺すべきだ。
相手を生かしておくと復讐しようと考えるかもしれない。
ある意味でおいしいが、才能の無い雑魚は吠えるだけで時間の無駄。だから常々俺は彼女たちに伝えていた。雑魚は迷わず殺せ、と。
リーダーっぽい男を含めた三人の盗賊以外を見事に殺し尽くしたコルネリア。彼女を見て、俺もルシアもシェイラも馬車から降りた。
「尋問している間に死体を退けてくれ」
青い顔した御者の男性にそれだけ告げると、ガタガタ体を震わせている盗賊の下へ近付いた。
「お疲れ、コルネリア」
「うん! 楽しかったよ」
「そりゃよかった。あとは俺がやるよ」
「はーい」
彼女はルシアからタオルを受け取ると、無地の白いタオルで顔を拭く。一瞬にしてタオルは赤く染まった。
「さて……時間ももったいないし、さっさと答えてくれると助かるな。お前らゾラ連邦の亜人だろ? こんな所で人を襲って何が目的だ」
剣の切っ先をリーダーっぽい男の顔に向ける。
男は震えたままか細い声で言った。
「そ、それは……ただ、人間を恨んでるだけで……」
「人間がお前に何かしたのか?」
「いえ……なに、も……」
「ハァ」
動機があまりにも馬鹿げている。本当かどうかも怪しいレベルだ。
しかし、わざわざ部下と離してそれぞれを拷問するわけにもいかない。時間の無駄だ。
コイツらは単なる盗賊。馬鹿で無知で愚かな存在だと決めつけ、俺は判決を言い渡す。
「そうか。なら死ね。もう用はない」
「ま、待ってくれ! 俺たちを殺すと——」
ザシュ。
男の首が地面に落ちる。
両隣にいた亜人たちが同時に血相を変えて逃げようとするが、その時にはもう彼らの首は無かった。
「本当に時間の無駄だったな」
剣に付いた血を払い鞘に納める。
俺たちを殺すとなんだって? どうせ、俺たちを殺すと亜人との間に軋轢が生まれるぞ、とかそんなことだろ。
いいんだよ別に。亜人にいくら嫌われようと戦争が起きようと。お前らは人間に構ってる場合じゃなくなるからな。
「さっさと死体を退かしてゾラ連邦の首都に行くぞ。腹が減った」
踵を返し馬車の中へ戻っていく俺を残りのメンバーは追いかける。
彼女たちから文句の一つも出てこない。完全に慣れたものだった。
「それなら私がルカのご飯作ろうか?」
「コルネリアが? ……遠慮しておく」
後宮で自由気ままに育てられた彼女がやったこともない料理をするなどフラグにしか聞こえない。
ろくな目にはあわないだろう。
「なんで⁉ 私天才だから料理くらいできるよ~」
「本当かしらね。そういうのはシェイラが得意そうじゃない?」
「隠し味なら任せてください!」
「なんで隠し味専門なのよ……」
ルシアのツッコみにシェイラは「あはは」と苦笑する。
なんだか総じて嫌な予感がした。たぶん、この中でまともに料理が作れるのは俺だけだ。前世の知識を持つ俺だけな。
……いや、ルシアなら面倒見もいいしなんとなくイメージだと料理ができそうだな。今度頼んでみるか? それで変なのが出てきたらからかってやろう。
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