第14話 決闘を申し込む
本編にも登場するモルガン公爵家の末っ子、ルシア・モルガン。
彼女は稀代の天才として描かれていた。
魔法の腕ならば世界一にも届くのではないか、と。
「こんばんは、ルシア様。会えて嬉しいですよ」
「こんばんは。あなたはルカ?」
いきなり呼び捨てかよ。
そっちがそういう態度なら、俺も遠慮しない。
「ああ。俺のことを知ってたんだな、ルシアは」
「ッ。年上には敬意を払いなさい。私は十二歳。あなたはまだ八歳よ」
じろり、とルシアが鋭い眼光をこちらに向けた。
並ぶモルガン公爵も俺のことを睨む。
ルシアはともかく、モルガン公爵のほうは凄い圧だな。
けど、俺の傍にもサルバトーレ公爵がいる。
負けじと口端を持ち上げて笑った。
「俺たちは同格の公爵家だぞ? 敬意を払わない相手に敬意を見せる必要はない」
「ずいぶんと生意気ね。神童とか呼ばれて調子に乗ってるんじゃないの?」
「それはお前も同じだろ。魔法の天才だったか?」
「そうよ。私は誰にも負けない。強くなって世界最強になるの」
「はっ。それは残念だったな。世界最強になるのは俺だ」
「……いい度胸ね。その威勢の良さだけは認めてあげる」
「どうも。お前の傲慢さも認めてやるよ」
バチバチバチッ!
俺とルシアの間には激しい火花が散った。
そこへ、新たな声が乱入してくる。
「——相変わらず仲が悪いね、両公爵家は」
低く、それでいて優しさを感じる声だ。
俺もルシアも、ルキウスもモルガン公爵も同じほうへ視線を向ける。
後宮の入り口から、背丈の小さな男性が二人、こちらに歩いてきた。
その姿に見覚えがある。
「ユーミル……!」
ぎりり、という奥歯を噛みしめる音がモルガン公爵から聞こえてきた。
彼女の表情が険しくなっている。
どこか睨むように男二人を見下ろす。
やはり彼らが最後の三大公爵家『ユーミル』。
かつて物作りが得意だったドワーフたちの末裔。
原作の情報によると、モルガン・ユーミルの両家は昔から仲が悪いらしい。
それこそサルバトーレ家とモルガン家みたいに。
「こんばんは、モルガン公爵。サルバトーレ公爵。そちらはご息女とご子息かな」
「お初にお目にかかります。サルバトーレ公爵が息子、ルカです」
「ふんっ。こんばんは。ルシアよ」
ぷいっとユーミル公爵たちから視線を逸らし、生意気な態度でルシアが挨拶? をする。
だが、ユーミル公爵たちは特に気にした様子もなく笑った。
「やっぱり! あの有名な魔法の天才ルシア嬢と、神童ルカ殿か! 会いたかったよ」
いきなり手を握られる。
ぶんぶん振り回されて困惑した。
「こっちは私の息子イグナスだ。素晴らしい才能を持っている。ぜひ仲良くしてやってくれ!」
「は、はあ」
なんだか陽気な人だな。
こんな感じだったかと前世の記憶を漁ってみた。
こんな感じだった気もする。
「私は凡人に興味がないわ。ただ武器や防具を作れるってだけでしょ? そんなもの、才能とは言わない」
「むっ。君に僕の何が解るって言うんだい? そっちこそ子供の割には魔法が使えるみたいだけど?」
「は? 私を馬鹿にしてるの? 戦えもしない下っ端ごときが」
顔を突き合わせてルシアとイグナスが険悪な空気を醸し出す。
本当に仲が悪いんだな、モルガンとユーミルは。
両家の関係を子供たちまでもが体現していた。
「これこれ、イグナス。やめないか。金にならないことをしても無駄だと教えていただろう?」
「お父様……しかし、これはユーミル家の威信に関わる問題かと。あの者の発言を許せません!」
「それはこちらの台詞だ、ユーミルの子よ。私の娘は最高の才能を持っている。君と違ってね」
「好きに言わせておけばいい。どちらがより利益を生むか。そんなもの、解りきっている」
「ッ! 相変わらず貴様は口が達者だな、ユーミル。また私の魔法で痛い目に遭いたいのか?」
「慰謝料がもらえるなら構わないとも。好きなだけ暴力を振るえばいい。それがモルガンのやり方だろう?」
ルシアとイグナスだけじゃない。モルガンとユーミル公爵たちも一触即発状態だった。
やるなら外でやってくれ。そして俺にぜひとも力を見せてほしい。
いっそさらに二人を煽ってやろうかと思った——その時。
背後から肩を掴まれた。
気配は察していたが、迷うことなく俺の下にやってきたな。
視線を後ろに向けると、亜麻色髪の少女が立っている。
見覚えがあった。ありすぎた。
なぜなら彼女は……。
「やっほー! こんな所で楽しそうに騒いでるね、ルカ」
「コルネリア……皇女殿下」
コルネリア・ゼーハバルト。
栄えあるゼーハバルト帝国の第二皇女。
本編に登場する重要キャラクターの一人だ。
なぜ皇族がこんな所にいるんだ? 普通、パーティー会場の控え室あたりに集まってるはずだろ。
驚く俺に、彼女は屈託のない笑みを見せながら言った。
「仰々しく呼ばなくてもいいよ~。ルカだけは特別。私、君に興味があるんだ」
「きょ、興味?」
「うん。永い歴史でも類を見ないほどの才能の持ち主。ふふ。気になるなあ」
「それでしたら私のほうが上ですよ、コルネリア皇女殿下」
俺たちの話に割って入ってきたのは、先ほどまでイグナスと喧嘩していたルシアだった。
大物の登場に、イグナスを放置してこっちにきたっぽい。
「あなたは……モルガン公爵のご息女だね」
「はい。ルシア・モルガンと申します。前にパーティーで顔を会わせましたね」
「そうだっけ? ごめん、覚えてないや」
「ッ」
一瞬、ルシアの表情に怒りの感情が現れる。
だが、その怒りの矛先が俺に向いていた気がするのはなんでだろう。
お前だけ覚えられるなんて許せない——的な?
「私、自分と同じかそれ以上の天才しか興味ないんだあ。ルシアさんにはあんまり魅力を感じない。ルカくらい強ければいいんだけど」
「それは……いくら皇女殿下といえども看過できません。我々モルガンがサルバトーレ家に劣ると⁉」
「うん。実際、武力においてサルバトーレ家に勝てる人っていなくない? 間違ってる?」
「くっ! 確かに現当主ルキウス公爵は最強の称号を持っています。それは認めましょう」
悔しそうな顔でルシアは続けた。
「しかし! 私がルカに劣っているという評価だけは許せない! 撤回をお願いします!」
「だってさ、ルカ」
「なぜ俺に言うんですか」
「当人同士の問題でしょ?」
「……」
あんたが火に油を注いだようにしか見えないが?
でも、悪くない状況だ。
パーティーだしルシアの実力を見るのは、魔法を見るのは難しいと思っていたが、この流れならもしかして?
期待を籠めて、しかし俺は首を横に振った。
「やめましょう、喧嘩は。パーティーの最中ですよ? どちらが上かこの場で試すこともできないでしょうし」
「ふふっ。それなら訓練場に案内してあげるよ」
お、食いついたな。
俺は内心でにやりと笑う。
俺に興味があるならまずコルネリアは乗っかってくると思っていた。
このチャンスに俺を測るつもりだろう?
俺はそれを利用してやる。
「ありがとうございます、コルネリア皇女殿下。ちょうどいいですね。この際、どちらが上かハッキリさせましょう、ルカ」
びしりと彼女は俺の顔を指差す。
両公爵が「面白い」と言わんばかりに笑みを浮かべていた。
そしてルシアは告げる。
「あなたに決闘を申し込みます」
きたきた。
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