第13話 三大公爵家

「皇族主催のパーティー、ですか」


 父ルキウスの言葉を繰り返す。

 ルキウスはこくりと頷いた。


「そうだ。二週間後に帝都の後宮で行われる。そこにお前を含めた数名の者を連れていく。他にも三大公爵家の面々が顔を出すだろう。決して舐められてはいけない」

「三大公爵家……畏まりました」


 サルバトーレ家を除く残りの三大公爵家と言えば。

 魔法の名門『モルガン』。

 富と職人の『ユーミル』。


 原作にも登場するあの連中もパーティーに参加するのか。


「お前のいいお披露目になるだろう。楽しみだ」


 それだけ言ってルキウスは俺を下がらせた。

 恐らく期待に応えられなければ、今まで築き上げたものが水泡に帰す可能性すらある。


 俺は口角を上げながら高鳴る心臓を無理やり抑えつけた。


『ふふっ。ルカったら笑ってる』

「楽しみだからな、皇族主催のパーティーが」

『面白いことあるの? お偉いさんが集まるだけでしょ』

「もしかすると歳も近いしいるかもしれないんだ、——あの女が」

『あの女?』

「モルガン家の末っ子。天才魔法使いのルシアが」

『その子に会うのが目的ってことね』

「そうなるな」


 原作において数多くの偉業を成した未来の賢者ルシア。

 彼女と会い、その実力のごくごく一端でも見られれば幸いだ。


 ただ……あの女、性格悪いんだよなあ。


 廊下を歩きながら、前世の記憶を呼び覚ます。











 一週間と数日後。

 帝都で行われる皇族主催のパーティーのために、俺と三人の姉が屋敷を出る。


「ねぇねぇ、ルカはパーティーに行くの初めてだよね? 楽しみだったりするのぉ?」


 玄関扉をくぐって早々、パーティーに参加する姉の一人、リネット・サルバトーレが俺に話しかけてくる。


 白髪の下、獰猛に細められた赤い瞳が興味深そうに俺を捉えている。

 元気な奴だな。


「そうですね。楽しみですよ」

「ふうん。私は退屈だなあ。パーティーなんかより魔物殺すか人を斬ってるほうが楽しいもーん。罪人狩りとかできないのかな~?」


 どこか不気味な笑みを作って彼女はカラカラと笑う。

 子供らしい容姿には似合わない言動だ。

 それを彼女の隣に並ぶもう一人の姉が注意する。


「なに言ってんだか。帝都で騒動を起こしたら、恥を掻くのはお父様だよ。大人しくしてて」


 同じく白髪の少女、レミリエーラ・サルバトーレだ。

 彼女とリネットはよく似ている。同じ母親から同タイミングで生まれたからな。

 いわゆる双子というやつだ。


 リネットは快楽殺人鬼の素質があり、オーラを覚醒させてからはちょくちょく使用人を訓練中に斬り殺している。

 使用人もそれなりの腕前のはずだが、恐ろしきはサルバトーレ家の血か。


 中でもリネットは相当オーラに長けているらしい。


「ぶう。レミリエーラはいつも私の邪魔ばっかしてつまんなーい。そっちだって魔物相手によく遊んでるじゃん」

「私はいいの。相手は魔物だし、魔物には生きる権利はない。それに、あの苦しみ悶える姿が……たまらないの」


 そう言って頬をわずかに赤く染めるレミリエーラ。

 彼女は彼女で妹のリネットに負けないくらいの狂人だ。


 主にドS。超が付くほどのサディストで、魔物と戦う時、わざと相手を殺さないように致命傷を避ける傾向がある。

 じわりじわりと甚振り殺すのが気持ちいいんだってさ。


「同じじゃん!」

「全然違うよ。そうでしょ、ルカ」

「え? あー、うん。そうだね。違う違う」


 ぶっちゃけ似たようなものだ。

 狂ってるという一点においては。


「あなたたち、私語は慎みなさい。ルカに馬鹿が移りますわ」


 サイコパスとドSに注意する最後の姉。

 うん。脳筋のノルン姉さんだ。


 彼女は俺の腕を引っ張って抱き寄せる。ルカは私のもの、と言わんばかりに。


「馬鹿って酷くなぁい? 私それなりに勉強できるし」

「嘘。リネットは教師が匙を投げた」

「あのボンクラが悪いんですぅ。そういうレミリエーラは頭いいの⁉」

「私は問題ない。むしろノルン姉様のほうが馬鹿」

「でた~。レミリエーラの自惚れ。大事なのは実力だもんね」

「搦め手で私に負けた子は言うことが違うわ」

「むむむ! だったら今ここでレミリエーラを——」

「リネット、レミリエーラ」

「「ッ」」


 ノルン姉さんの一言に二人は顔を強張らせた。

 彼女の体から濃密な殺気が放たれている。


「何度も言わせないでください。殺しますわよ」

「……はあい」

「解りました」


 二人ともノルン姉さんの覇気に気圧され口を閉じる。

 片やノルン姉さんは、汗を滲ませる俺の頭を撫でた。


 彼女、家にいる時はずっとこんな感じなんだぜ? 俺は人形かっての。


 だが文句は言えない。下手にノルン姉さんに暴れられると、その余波だけで俺やリネットたちは死にかねないからだ。


 彼女はこの世界でもトップクラスに危険な生物——竜種すら殺した正真正銘の強者つわもの


 ノルン姉さんそのものがドラゴンと言ってもいい。だから触らぬ神にはなんとやら、だ。

 彼女に抱き締められた状態で馬車に乗り込む。


 馬車は三台。父と母たちが乗る先頭馬車と、リネット&レミリエーラたちの中間馬車。最後の後部馬車が俺とノルン姉さんになる。


 ……最悪だ。


 帝都に到着するまでの間、俺はずっと姉さんに可愛がられる。拘束を解くことはもちろんできなかった。











 馬車に乗って長い道のりを踏破する。

 やがて帝都に到着した。


 まっすぐサルバトーレ公爵家の馬車は帝都にある邸宅へと向かう。

 そこで一日休み、翌日。

 皇族主催のパーティーの日だ。


 夜になってまたしても馬車で後宮へ向かった。

 後宮の敷地内に入ると、そこからは徒歩での移動になる。




「ここが……後宮か」


 煌びやかな宮殿の中に足を踏み入れた。


 転生して初めて後宮に入る。さすがに皇族が住むだけあって立派だな。財をこれでもかと使っている。


「どうですか、ルカ。後宮は」

「綺麗な所ですね、ノルン姉さん」

「綺麗なだけですよ。財力などただの見栄にしかならない」

「それをここで言っちゃダメだよ。皇族の耳に入ったら大変だ」

「構わないでしょう。我々サルバトーレ公爵家を止められる者などいません」

「——それは聞き捨てなりませんね、サルバトーレ家の者よ」


 ノルン姉さんの言葉に、背後から反応が返ってくる。

 俺もノルン姉さんも、ルキウスたちも振り返る。視線の先には、耳の長い女性が立っていた。


 端正な顔だ。そして突っ立ってるだけでも解るほどの膨大な——魔力。

 原作でも見たことがる面だ。こいつは……。


「いたんですか、


 エルフのモルガン公爵だ。


 帝国の建国に手を貸した三英雄の一人、ティターニア・モルガンの子孫。

 生まれながらに魔力の才を持つ一族か。


「帝国はあなた方サルバトーレ家のものではありません。ゆめゆめお忘れなきよう」

「でしたらあなた方モルガンのものだと?」

「……否定はしませんね」


 うわあ。本当にモルガンも終わってるな。

 傲慢でイカれたサルバトーレ家といい勝負だ。

 つうかやっぱりお前もここに来ていたのか……ルシア・モルガン!


 モルガン公爵の隣には、末っ子のルシアが並んでいた。

 にやりと笑って彼女を見つめる。


 ルシアもまた俺を睨むように見つめていた。

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