【web版】最強の悪役が往く～実力至上主義の一族に転生した俺は、世界最強の剣士へと至る～

第73話 おかしいな……

　エイデンとの二度目の戦いが始まる。

　前に刃を交えたのは、学院に入学した頃だったな。

　あの時はエイデンなどまったく相手にならなかった。これが原作の主人公かと落胆したくらいだ。

　しかし、今は違う。

　もう入学からそこそこの月日が経っていて、本人も努力をした風なことを言っていた。

　ならばせめて楽しませてもらおう。

　無論、最後に勝つのは悪役（おれ）だがな。

　一歩、素早い動きでエイデンが地面を蹴る。

　自らの不安をかき消すような大胆な動きで俺の側面に回った。

　正面から突っ込んでこないだけマシだな。側面へ意識を回すというラグが戦いの中で発生する。

　それでも俺は平然と突っ立ったままエイデンの攻撃を受ける。

　エイデンは木剣を薙ぎ、それを俺が同じく木剣でガードした。

　手に伝わってくる感触は……微妙。

　オーラの総量が低くも高くもないラインだ。おそらくコルネリアのほうがオーラの総量は多いだろう。

　ゲームでは明確にレベルという概念があった。レベルを上げれば上げるほどに主人公は強くなる。

　それは当然のことで、主人公こそが世界の中心だ。

　けど今は違う。

　ここはゲームの世界じゃない。もう現実だ。

　レベルなんて概念は存在しないし、必要なのは才能と地道な訓練。

　エイデンがどれほどの才能を持つかは知らないが、今のところ主人公らしい片鱗は一切見られなかった。

　これでは期待するだけ損というもの。

「なんだ、思ったより軽いな。本気で殴ってるのか？」

「ッ！　たった一撃防いだだけで調子に乗るなよ！」

　バッとそう言ってエイデンは後ろに跳んだ。

　一度距離を離したと思ったら、再び地面を蹴って俺に迫る。

　今度は背後。鋭い攻撃が飛んでくるものの、殺気とオーラの動きで予測するのは簡単だ。

　他にも斜め斬り落とし。斜め斬り上げ。突き技などなど。

　エイデンは攻撃のパターンを幾つも用意していたが、そのどれもが俺には通用しなかった。

　エイデンの攻撃はすべて俺の木剣に吸い込まれ、時に弾かれる。

「こ、のっ！」

　軽やかな動きで俺がエイデンの木剣を上に弾いた。エイデンの体がわずかに後ろへ仰け反る。

　隙だらけだ。いつでも追撃を入れられる。

　そう思っていると、おもむろにエイデンは剣を持っていないほうの手を前に突き出した。掌をこちらに向ける。

　直後、エイデンの体から魔力の反応を感じた。

「燃えろ！」

　エイデンの掌から炎の球体が放たれる。

　ルシアに比べれば笑えるほどの威力だが、しっかり魔法は発動していた。俺の視界を灼熱が埋め尽くし——木剣で斬り飛ばす。

「くっ！　俺の魔法を剣で……！」

「オーラがあれば魔法だって斬れるさ。さっきの戦いを見てなかったのか？」

「うるさいうるさいうるさい！　お前みたいな奴が偉そうに喋るな！」

　ずずず、とエイデンの足下から黒い霧が発生する。

　まさに負のオーラを凝縮したような漆黒の霧。

　それを見た悪魔アスタロトが言った。

「まぁまぁ……あれが呪詛ですか？　ただの煙を作ったわけじゃありませんよね？」

「魔法より酷いな」

　彼女の嘲笑に俺も同意する。

　おそらく呪詛はまともに上げていない。その証拠に、霧に包まれても何も感じなかった。

　本来なら体調を崩したり何かしらの状態異常にかかるはずだが……。

「本物の呪詛を見せてやるよ。アスタロトもあんな煙が呪詛と思われるのは嫌だろうからな」

　こうして使うのは久しぶりになるが、俺は同じように足下から黒い霧を生み出す。

　霧はエイデンの霧を飲み込みながらエイデンの体にまとわりつく。

　その瞬間、エイデンは発狂した。

「うわあああああああ⁉　な、何が……」

　盛大に叫んだエイデンが勢いよく口から血を吐き出す。

　口だけではない。目や鼻からも血が流れている。剣すら持てなくなってその場に倒れた。

「これが呪詛、本物の呪いだ。お前のはただ煙いだけ」

「うぐ……がっ！」

　血は止まらない。もはや痛みに立ち上がることすらできなくなっていた。

　これではつまらないな。弱い者いじめじゃないか。

　実際に観客席にいる参加者たちもドン引きしていた。唯一、コルネリアとルシアは爆笑していたが、それ以外は全員冷たい反応だ。

　あ、シェイラは特に反応はない。普通に俺の応援をしている。

　そんなわけで場の空気を変えるために呪詛を解除した。

　痛みから解放されたエイデンは、じろりと俺を睨む。

「酷いな、せっかく苦しみから解放してやったのに」

　感謝してほしいくらいだった。

「だ、まれ……お前は——がはっ⁉」

　言葉の途中、俺の蹴りがエイデンの腹を抉る。

　リングの外に出ないよう、しっかり加減した上で上空に蹴り飛ばした。

　くるりと回転し、オーラで体を守りながらリングの上に落下する。

　まともに防御できなかったエイデンは重症だ。呪詛なしでも立ち上がれないでいた。

　俺は特別に剣を下ろしたまま言った。

「ほら、早く回復しろよ。祈祷が使えるんだからな」

　どうだ(ドヤ顔)。

　これなら観客たちも大満足だろう？

　そう思って周りを見ると……なぜか、観客たちの反応がさらに冷たくなったように見える。

　ルシアとコルネリアは変わらず爆笑してるのに。

　おかしいな……。