第41話 ドラゴン討伐
「ドラゴン……?」
学院長フェオドラ・モルガンの言葉に、俺は首を傾げた。
彼女はこくりと頷く。
「ああ! 誰もが強敵を想像する中で出てくるあのドラゴンさ! 友好の証に、最近現れたと噂のドラゴンの情報を君にあげよう」
「そこまでして俺の好感度を稼ぎたいと」
「まあね。私はモルガン公爵家のしきたりとか口うるさい小言には興味がない。ただ、魔法を知れればそれでいいんだ」
「例え相手が、可愛い妹を倒した相手でも?」
「殺した相手でも、さ」
彼女は狂気すら感じさせる笑みを見せ、高らかに声を上げる。
「私はそれだけいろいろな魔法を覚えたい! 見たい! 調べたい! そのためなら喜んでモルガンという家名を捨てようとも!」
「く、狂ってる……じゃあなんで学院長になんかなったんですか」
「もちろん魔法の研究をするためさ。厳密には、魔塔の担当になりたかったんだけどね。それは叶わなかった。なまじ優秀すぎるというのも困りものだね」
くくく、と笑いながらそう言うフェオドラ。
顔は全然笑えてないぞ。
「モルガンという名前は、学院でトップになるのに利用できるけど、所詮はその程度。私の飢えを満たせるのは、結局のところ魔法しかない!」
「立派なモルガンの人間ですね。ルシアによく似てる」
「一緒にしないでほしいね」
キッパリと彼女は俺からの評価を叩き落とした。
「ルシアは可愛い妹だが、方向性は全然違う。彼女が強さを求めるのに対し、私はただただ魔法が知れればいい。強さなど二の次さ」
「あっそう」
なんだかこいつと喋ってると無駄に疲れるな……ゲームだとちょい役だったくせに。
だが、フェオドラが持つというドラゴンの情報は正直ありがたい。
折を見てそろそろドラゴンと戦いたかったからな。
「ちなみに、学院長が持つドラゴンは成体ですか?」
「いんや、たぶん子供だね」
「なら教えてください。俺がそのドラゴンを討伐しに行きます」
成体の竜が相手なら今の俺に勝ち目はない。百パーセント殺される。
だが、数十から百年程度しか生きていない竜なら、俺にも勝ち目はあった。
「君ならそう言うと思ったよ、若きサルバトーレの獅子。かつて竜殺しを実現したノルン・サルバトーレを思い出すね」
「姉さんと一緒にしないでください。俺のほうがまだ弱いですよ」
姉さんは学園在籍中……つまり俺と同い歳の頃に子供の竜を討伐している。
それは、ひとえにオーラをひたすら鍛えていたからだ。
俺とは育成の方向性が違う。
しかし、かといって今の俺の力が竜に届かない道理はない。
強化魔法もあるし、十中八九、成体じゃないドラゴンなら殺せるだろう。
ドラゴンスレイヤーを達成し、俺がどれだけ強くなったのか、一族の人間に知らせるにはちょうどいい。
もしかすると、焦って暗殺者とか送ってくれるかもしれないからな(ワクワク)。
「私はいずれ君が、かの名高きサルバトーレ公爵すら超えると予感しているよ」
「なら、その一歩のためにも早くドラゴンの居場所を教えてください」
「……君は意外とせっかちだね」
「学院長がのんびりしすぎてるだけかと。もうお年かな?」
「はいはい。安い挑発いらないよ。ドラゴンの居場所を教えてあげよう」
ハァ、とため息を吐いたフェオドラは、続けてハッキリと告げた。
「ドラゴンがいるのは、王都の北に向かった先にある鉱山だ」
「鉱山? 鉱山にドラゴンが住み着いたんですか」
「そうらしい。国の上層部も頭を抱えているよ。このままだと、他のサルバトーレ公爵家の誰かに依頼されるだろうね」
「なら今すぐにでも倒しに向かいます」
「休学届は私が代わりに出しておこう」
「至れり尽くせりですね」
「これも、好感度を稼ぐための手段だよ」
くすりと笑った学院長の横を通りすぎる。
俺はそのまま訓練場を出て、急いで出掛ける支度をした。
☆
翌日。
学院の前に停まっていた馬車に、俺——とシェイラが乗り込む。
実は昨日、訓練場を出たところで彼女と会った。
雑談を交えるうちに、これからドラゴンを討伐しにいくことを伝えると、彼女も行きたいと言い出した。
どうやらシェイラは、ドラゴンではなくドラゴンが住み着いた鉱山のほうに興味があるらしい。
かつてその鉱山には、地下迷宮が隠れていたとかなんとか言って、勝手に興奮していた。
別にドラゴンを倒しに行くだけだし、邪魔さえしなければ問題はない。
そんなわけで、彼女と共に馬車で王都を出る。
移り変わる景色を眺めながら、今か今かと胸を躍らせた。
☆
ルカ、シェイラが王都を出る少し前。
薄暗い森の中で魔物討伐に明け暮れる一人の女性がいた。
彼女の名前はルシア・モルガン。
狂気に満ちた瞳を魔物に向けながら、高火力の魔法を放つ。
魔物は魔法を喰らい、体が粉々に砕け散ってしまった。
その様子を見下ろし、彼女は小さく呟く。
「ダメ……こんな力じゃ、まだまだルカには通用しないはず……やっぱり、もっと魔物を……」
ぶつぶつと呟きながら、そういえばと彼女は思い出す。
「フェオドラお姉さまが……何か、手紙に書いてたような……」
あまり興味がなくて読んでいなかったが、一部分だけ非常に気になる話が書いてあった。
それは……たしか……。
「——そう、そうよ。ドラゴン! ドラゴンだわ!」
思い出した途端にルシアの声が大きくなる。
興奮した様子で踊りながら言った。
「ドラゴンを倒せれば! 証明になる! おまけに、ドラゴンの血なら……うふふ」
彼女の瞳に、どす黒い感情が宿る。
所々赤く染まった体を振り回し、謳うように笑った。
「あははは! あはっ!」
そこには、もはや正気などない。
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