第43話 数年ぶりの再会

 乗っていた馬車が鉱山の近くに到着する。


 近隣に街はあるが、わざわざ立ち寄る必要はない。この馬車はサルバトーレ公爵家所有のものだ。乗り換えずに、そのまま往復で屋敷まで戻れる。


 俺は扉を開けた御者の男性に、


「あの鉱山にいるドラゴンを退治してくる。お前はここで馬の面倒を見ていてくれ」


 とだけ伝え、同乗していたシェイラもそのあとに続いた。


 地面に降り立つと、夏場を超えて少しだけ肌寒い空気を感じる。

 後ろに並ぶシェイラも、


「うぅ……なんだか、鉱山の近くは少しだけ寒気を感じるね」


 と感想を口にした。

 俺はくすりと笑って歩き出す。


「この鉱山にはドラゴンがいるからな。それに、そろそろ寒くなってくる頃だ。早く王都に戻って、コロシアムの準備をしないと」


「そういえばそんなイベントあったね」

「イベント自体はどうでもいいが、優勝賞品だけは奪わないといけない」

「奪うって表現がもう物騒だよ、ルカ様」

「おっと。つい、口が悪くなる。まあ、どうせ勝つのは俺だがな」


 数年間、コロシアムに参加したチャレンジャーや優勝者たちの情報を集めてみた結果、さほど強くない者たちばかりだった。


 正直、カムレンやイラリオですらまあまあよい順位まで昇れるだろう。その程度の相手に負ける気はしない。


「ルカ様のその自信、私も見習う。勝つのは、私」

「だろうな。俺の前に立つのは、シェイラかコルネリアしかいないと思ってる」


 この二人は特別だ。俺と一緒に訓練してるだけあって、かなり強い。

 その上で勝つのはやっぱり俺だがな。


「コルネリア殿下と言えば、最近姿を見ない。忙しいのかな?」

「皇女殿下だからな。頭のネジは飛んでても、仕事はできるいい奴だ」

「褒めてるのか貶してるのか分からない」

「どちらかというと褒めてるよ」


 俺は才能のある奴が大好きだ。才能のある奴が近くにいると、その才能を……培ってきた経験や技術を盗めるからたまらない。


 当然、俺も技術や経験を提供する。提供して、さらにそれを独自の技、経験則と混ぜてオリジナルの力を生み出してほしい。


 そういう協力は、一人で鍛錬するよりよほど効率より強くなれるからな。

 今回のドラゴン討伐は、俺だけのイベントにすぎないが。


「ルカ様の称賛はよく分からな——」


 シェイラが言葉の途中で足を止めた。

 音も消え、空気がひりつく。


 俺もまた、彼女と同じように足を止めていた。気づいたのは俺のほうが早い。


 正面奥、洞窟へ続く山道に誰かいる。誰かっていうか、凄く見覚えのある女が立っていた。


 彼女もまたこちらに気づく。気づいて、目を見開いていた。


「まさか……こんな所でお前に会えるとはな」


 彼女の顔にはある少女の面影があった。

 数年前に顔を合わせた少女が、数年という時を刻めばこういう成長をするという。


 美しき、しかしどこか陰のある女性へ声をかけた。彼女の名前を呼ぶ。




「久しぶりじゃないか、——ルシア」




 俺に名前を呼ばれた彼女は、口端を持ち上げて笑った。


「やっぱり……あなた、ルカ・サルバトーレね」

「そうだ。皇族主催のパーティー以来か。ずいぶん変わったな」

「あなたのおかげでね。今の私は、ひたすら力を求めて彷徨う何かよ」

「あ、そう」


 なんだ? 俺に負けて厨二病でも発症したのか?

 別にこういう世界だし、悪くないとは思うが付き合う気はない。

 それより、俺は気になったことを彼女に訊ねる。


「お前は何をしにここへ来たんだ」

「その様子だと、どうやら目的は同じらしいわね」

「……ドラゴンか」

「正解」


 くすりとルシアが再び笑う。

 何も不思議なことではない。


 学院長フェオドラ・モルガンがドラゴンの生息地を知っていたのだから、その妹のルシアが知っていても驚かない。


 むしろ、あの女、俺とルシアをかち合わせるために情報を教えたのか?

 だとしたら、いつか絞める。

 ルシアのことは嫌いじゃないが、目的が重なってるとなるとめんどくさい。


 どうしたって、誰から見たって争う未来しかないからな。


 どちらが早く竜を討伐するか。もしくは……ここで、邪魔者を排除するか。

 個人的には、俺は後者を選ぶ。


「ならお前をここでぶっ飛ばせば、ドラゴンは俺のものか」


 腰に下げた鞘からムラマサを抜く。


 ドラゴンと戦いながら彼女の妨害など行っている余裕はない。ここでさっさと排除して、ドラゴンとはサシで戦う。


 彼女も同じ結論を出したのだろう。どこか嬉しそうに杖を構えた。


「同感ね。私もここで退くわけにはいかないわ。正直、まだ早いとは思うけど……せっかくのチャンスでもある。ここで、私の全てをぶつけるわ」


 本気の殺意をルシアはぶつけてきた。

 それに答えるように、俺は全身にオーラをまとう。


 彼女の体から感じる覇気は、数年前とは比べ物にならない。

 だが……なぜか、その背後にどす黒いものが見えた気がした。




「行くぞ、ルシア。数年前と同じように、地面を舐めてくれ」

「今度は私があなたに土を付ける番よ!」


 ルシアが魔力を練り上げ、俺が同時に地面を蹴った。


 シェイラは後ろに下がり、戦いが始まる。

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