第44話 未知の力

 ドラゴンを討伐しに鉱山へやって来た俺は、そこでルシアと数年ぶりの再会を果たす。


 かつて皇族主催のパーティーで俺にボコられたルシアは、あの頃の面影を大きく変えていた。


 いったい何があったのか。

 苦しんだであろうことは容易に想像できた。

 しかし、ルシアが苦しもうと泣き喚こうと俺の知ったことじゃない。

 俺は俺のためにドラゴンを討伐する。それにはルシアが邪魔だった。


 彼女と本気でぶつかり合う。




 まずは全身いオーラをまとった。

 地面を蹴り、決着を急ぐように彼女へ肉薄する。

 が、背後へ回った瞬間、足元から火柱が噴き出した。


 咄嗟にそれを後ろへ跳んで避ける。


「今のは……設置型の魔法か」


 通常、魔法は放出して扱うのが基本だ。

 炎の球にしろ、氷の壁にしろ、攻撃も防御もそういう風に魔力を放出する。


 けれど今ルシアがやったのは、自身の体から離れた所に魔法を設置しておくという高等テクニック。


 オーラも呪詛も祈祷もそうだが、能力はどれも体から離れるほどに制御が難しくなる。


 たった十五センチの距離が開くだけで、まともに操れないという話はあまりにも有名だ。


 それを涼しい顔でルシアはやってのけた。

 俺の中で高揚感が顔を見せる。


「驚いた? 私にとっては簡単な技術よ。——こんな風にね」


 続けてルシアが魔法を発動する。

 五メートルは離れている俺の周りに、光のリングが構築された。

 光の帯は一瞬にして俺の体に巻き付く。


 拘束系の魔法だ。光の帯は徐々に俺の体を焼いていく。


「なるほど。数年前とは雲泥の差だな」


 俺には分かる。かつて戦った俺だからこそより詳細に分かる。

 今のルシアは、原作を超えていた。原作を超えて強くなっている。


 しかし、この程度の魔法じゃ俺を捕らえることはできない。

 オーラで強化した腕力が、無理やり光の帯を内側から破壊した。

 粒子となって魔力が空気に霧散する。


「ふんっ。余裕そうね、まだ」

「まあな。お前だって本気じゃないだろ? こんなもんじゃないはずだ」


 わずかに受けたダメージは即座に祈祷で治療する。

 無傷の状態に戻り、俺は再び地面を蹴った。


「当然じゃない。私は、あなたを倒すためだけに力を付けてきたのよ!」


 バチバチバチッ!


 懐かしい青色の雷が奔る。

 オーラをまとった剣で飛んできた雷を斬り裂いた。


「懐かしいな。この攻撃も」

「前とは威力も精度も違うわよ」


 バチバチバチッ!


 言うや早いや、ルシアは無数の雷を連続して放った。

 他にも、周囲をあの光の帯が囲む。

 先ほどの拘束とは違う。帯は鋭く捻じれ、釘のように細くなって飛んでくる。

 地面を抉り、さらに足元から飛び出す。


 複数の、それも高火力の魔法をこうも操るとは。

 正直、魔法の制御能力は俺を超えていた。


 いいね。最初はつまらない決着になると思っていたが、想像以上に胸が躍る。


 どうやってそこまでの制御力を獲得できたんだ? あまりにも滑らかに、威力を維持したまま、おまけに攻撃の軌道が複雑だ。


 楽しい。楽しい!

 戦いながらどんどん俺の表情は笑みに変わっていった。


「最高じゃないか、ルシア! お前を舐めていたこと、謝罪させてくれ!」


 俺は上下左右から迫る複数の魔法を紙一重で避けていく。


 もう攻撃のパターンは慣れた。

 タイミングを掴み、魔力の反応に合わせて軽々と躱していく。

 その上でルシアとの距離を詰めると、予め設置してあった防御用の魔法が起動。

 俺の行く手を黒い柵が遮る。


 だが、関係ない。どうせそんなことだろうと思っていた。

 彼女が俺に魅せてくれたように、俺もまたルシアに礼を返さないと失礼だろう。


 左手に火属性と風属性の魔法を同時に構築した。

 それを組み合わせ、前方に。ルシアに向かって放つ。

 彼女は咄嗟に魔法がくることを予測し、全力で防御魔法を展開するが——。


 俺の魔法が、それごとルシアを撃ち抜いた。


 轟音を立ててルシアが背後の壁に埋まっていく。

 熱と衝撃が鉱山の一角を吹き飛ばした。




 巻き上がる土煙を風魔法で払うと、地面に倒れたルシアの姿が見える。

 彼女は全身に火傷を負いながら、それでも立とうと体に力を籠める。

 その瞳には、いまだ諦めの色はなかった。


 あの攻撃を受けて。そんな瀕死の状態で。なおも、俺を殺すと睨む。

 ゾクゾクした。

 間違いなくルシアは獅子だ。他者を喰らう存在だ。


「ま、だ……私、は……負けて、ない!」


 ガラガラの声でそう叫ぶと、次の瞬間。

 全身からどす黒いオーラを噴き出し、みるみるうちに体の傷を治していく。


「? なんだその力」


 俺も見たことがない力だった。


 祈祷……にしては色が濃い。どちらかというと呪詛に近いな。しかし、呪詛に治癒能力はない。


「まさか……呪いのアイテムを持ってるのか? お前」


「いいえ。そんなせこい力じゃないわ。あなたも聞いたことくらいあるんじゃない? 『封印指定魔法』を」


「封印指定魔法……」


 それってたしか、大昔に使用が禁じられた恐ろしい魔法のことだよな。


 魔法の域を超えた力を持ち、しかし扱いや発動条件が厳しいことで封印されたという。


 それを、なぜ彼女が知っている?

 封印指定の魔法は、過去に葬り去られた秘匿情報だぞ。





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【あとがき】

本日、新作を投稿しました!

『勇者パーティーを追放された精霊魔法使いは、亜人や魔物と旅をする』

見て、応援していただけると幸いです!

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