第69話 やりすぎぃ

 エイデンの試合も終わり、再びトーナメント戦はつつがなく進行していった。


 すると今度は二回戦。


 対戦相手は毎回ランダムで選ばれるため、誰と当たってもおかしくはない。


 だが……まさかいきなり彼女とぶつかるとは思ってもいなかった。




「意外と早い対面だったな、シェイラ」


「ん。負けない」


 俺の目の前に立ったシェイラ・カレラが、気合充分といった風に拳を作る。


「手加減するなよ? 俺が教えた複合魔法も使ってガンガン攻めてこい」


「分かってる。ルカ様を退屈にはさせない」


 にこりと笑ってシェイラは魔力を練り上げた。


 司会の男性が試合開始の合図を送り、その直後にシェイラが攻撃を仕掛ける。


 ——真っ先に地面が凍った。


「いいね、早速複合魔法か」


 シェイラが使った複合魔法は風と水の合わせ技、氷。


 地面を凍らせながら目の前に分厚い氷壁を作り出す。


 この氷は魔法で生み出されたもの。

 氷壁で隠れたはずのシェイラの姿がくっきりと見えていた。


 相手からも俺の姿が見えている。


「どんどんいく。殺すつもりで」


 彼女は再び属性を混ぜる。


 ルシアが複合魔法の威力に優れているなら、シェイラは複合魔法の種類に優れていた。


 当然、彼女は使える複合魔法の種類が多い。


 今度は炎と土を混ぜてどろどろの溶岩を作り出す。


 シェイラの魔法攻撃は、コロシアムのリングを破壊しながら俺の下に迫った。


 観客たちも司会の男性も絶句している。


 けれど俺には通用しない。


 シェイラに倣って氷の魔法で溶岩を凍結させた。


「ッ。やっぱりダメか」


「最初に氷壁を作ったのはいい案だな。面白いと思う」


 彼女の前には分厚い防御専用の氷壁がある。


 あの壁を壊さないかぎりシェイラに攻撃は届かず、彼女はほぼ一方的に相手を殴れるのだ。


 魔法は遠距離攻撃向きだからな。実に利にかなった戦い方だ。


「まだまだ、終わってない!」


「ん?」


 ゴゴゴゴゴ、と地面が揺れる。


 何事かと思ったら、リング周辺の地面に大量の魔力が流れていた。


 この反応は……。


「なるほど、土と水の複合か」


 言ったそばから地面が砕けて蔦のようなものが生えてきた。


 蔓が伸びて俺の体を絡める。


「他にも、これでどう?」


 植物に拘束された俺の前で、シェイラが大きな火の球体を作り出す。


 火と風を利用した極大の攻撃魔法。


 いくら俺でも無防備な状態であれを受ければ多少はダメージを受けるな。


 にやりと笑って俺は言った。


「臨機応変。それがお前の強さだな」


 オーラを放出する。


 腕に力を入れ、無理やり植物の拘束を破壊した。


「なっ⁉ 結構魔力を込めたのに!」


「甘い甘い。むしろ全力で拘束に力を回すべきだったな」


 俺を逃がすまいと植物が動き続けるが、足下を起点に炎が発生。


 俺の生み出した魔法がシェイラの魔法を襲う。


「土にも水にも火は効かないが……草には火が通用するってな」


「ッ。でも、こっちも準備はできた!」


 完全に魔力制御のされた巨大な火の球が俺の頭上に落ちる。


 リングを覆うほどの大きさで、試合のルールではリングの外に出てはいけない。

 回避不可能な攻撃である。


 だが、それは避けられないってだけのこと。




 




 俺は笑みを変えないまま腰に下げた鞘から剣を抜く。


 木剣だ。

 本来はこれにシェイラの魔法を打ち破るほどの力はない。


 中途半端なオーラを込めても燃やされてしまうだろう。


 だからこそ大量のオーラを注ぎ込んだ。


 オーラの使い手はオーラの総量に強さが比例する。


 要はオーラさえあればなんでもできるってことだ。


 きっとノルン姉さんならその辺に落ちてる小枝でも簡単にシェイラの魔法を吹き飛ばせるんだろうな。


 俺も似たようなことはできる。けどそれはシェイラを馬鹿にする行為だ。


 今は木剣でいい。


 木剣を上段で構え、鋭い一閃を振り下ろす。


 直後、——魔法が斬れた。


 オーラの能力が魔力に干渉し、魔力そのものを断ち切る。


 能力同士が反発を起こす現象だな。他の能力でも起こる。


「……やっぱり、ダメか」


 シェイラは肩をすくめて尻餅を突いた。


 すでに戦意が削がれている。


 無理もないな。


 攻撃魔法を切断するのと同時に、彼女を守っていた氷壁もまた、俺の一撃で粉々に砕け散った。


 リングすら切断し、地面に大きな斬り傷をつけ、静かに試合は終了する。


 もはや俺たちの試合に歓声もブーイングもない。


 誰もが揃って何も言えないでいた。


 ……いや、たった二人だけ拍手と歓声を送っている。


 コルネリアとルシアだ。


 二人とも「いい試合だった」と楽しそうに笑っていた。


 余計に空気が重い気がする。


 俺は気まずい空気を打ち壊すべく、倒れたシェイラに声をかけた。


「あー……シェイラ。いい戦いだった。成長したな」


「ルカ様……ふふっ、ルカ様が褒めるなんて似合わない」


「うるせぇよ」


 互いに笑い、手を取り合って席に戻る。




 俺たちがぶっ壊したリングは、急遽土魔法の使い手が頑張って直してくれた。


 ごめんって。

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