第70話 女同士の戦いその②

 俺とシェイラの戦いが終わった。


 シェイラには悪いが俺の勝利は揺るがない。


 むしろ相手がシェイラだからこそ力が出せた。


 彼女も敗北しておきながらどこか清々しい表情を浮かべている。


 揃って観客席に戻ってきた俺とシェイラを、二人の女性が出迎えた。


 ルシアとコルネリアだ。


「お疲れ様~。悪くない勝負だったね」


「ふふんっ。シェイラ、アナタの仇は私が取ってあげるわ」


「遠慮します」


「なんでよ!」


 せっかくのルシアの申し出を間髪入れずにシェイラが拒否した。


 たまらずルシアが鬼の形相でシェイラを睨む。


「自分の敗北は自分の力で勝利に塗り替える。ルシア様の協力は必要ない」


「むっ……」


「はは、シェイラはルシアより心構えができてるな」


「なんですって~! 私は別にそういう意味で言ったわけじゃ……」


「ん、分かってる。今のは単なるジョーク」


「カッカするなよルシア」


「誰のせいよ誰の!」


 ぎゃー! とルシアに怒鳴られた。


 彼女は叩くといい音が鳴る。


 それを知っている俺とシェイラは即席で冗談を言った。


 見事騙されてルシアは顔を赤くする。


「ま、個人的にはルシアの気持ちは嬉しかったよ」


「ルカに喜ばれても嬉しくないわ」


「拗ねるなって。俺はただ、ルシアが仲間意識を持つようになったことが嬉しいって言っただけだよ」


「仲間意識……ね」


「少し前のお前はそりゃあ尖ってたからなぁ。私に仲間は必要ないわッ、キリッ! くらいには」


「それって私の真似じゃないわよねぇ? 殺すわよ」


「ジョークジョーク」


 でも嬉しかったのは本当だ。


 これまで仲間なんて自分が強くなるための道具くらいにしか考えていなかったが、コルネリアと長く一緒にいた影響か、俺もまた仲間意識みたいなものが芽生え始めた。


 だからどうってわけでもないが。


 ぐいぐいっと襟首を掴まれてルシアに前後に押しては引っ張られる。


「ん、私も嬉しかった。ルシア様にとって私はちゃんと仲間」


「ぐっ! もういいから話題を変えましょう! ……それと、仲間だと思うのは当然でしょ」


 そう言ってぷいっとルシアは視線を逸らした。


 このツンデレめ~。


 俺は少しの間ルシアの頬をしつこく突っついた。


 ビンタされる。


 手首を掴んでガードした。


「——リア!」


「あ、次私だ」


 わちゃわちゃルシアと話していたら、いつの間にか司会の男性が次の対戦相手を発表していた。


 最初に呼ばれたのはコルネリア。


 相手は誰だろうな。


 諦めず俺にビンタしようとするルシアを拘束しながら司会の声に耳を傾ける。


 呼ばれたのは……。


「ルシアァァァ、モルガァァァン!」


「……え? わ、私?」


 俺に両手首を掴まれているルシアだった。


「おー。俺とシェイラの次はルシアとコルネリアか。面白い戦いを期待してるぞ」


 パッと彼女の手首の離す。


 ルシアはすぐにその場から立ち上がった。


 不敵な笑みを作りながら俺に言う。


「任せなさい。あの皇女様に敗北の味を教えてやるわ」


「云うねぇ」


 リングのほうへ歩いていくルシアの背中を見送った。


 今のところルシアはやる気満々だ。


 格上のコルネリアが相手でも怖気づく様子はない。


 対するコルネリアは、すでにリングの上に上がっていた。


 これまたルシアと同じように不敵な笑みを携えている。


「あらら、もうルシアと戦うんだ。残念だね」


「残念? 私はルカより先にアナタを潰せるんだから嬉しいわよ。どうせどこかで当たる運命だったでしょうしね」


「そっか。私は悲しいよ。——もう、ルシアの試合が見れなくなるんだから」


「ッ!」


 ルシアの挑発を同じく挑発で返すコルネリア。


 ルシアの額に薄っすらと青筋が浮かんだように見えた。


「コルネリア殿下とルシア様ですか……奇しくも、さっきの私たちと同じ構図ですね」


「まあな」


 シェイラの言いたいことは分かる。


 コルネリアは魔法も使えるが一番使用頻度の高い能力はオーラだ。


 片やルシアは魔法しか使えないが俺を除けば三人の中で一番魔法が上手い。


 オーラと魔法。


 シェイラが言うように、前の試合とまったく同じ戦いになるだろう。


 先ほどはシェイラが手数で。


 俺が圧倒的なパワーでぶつかったが、コルネリアとルシアの場合はおそらく……お互いにパワーをぶつけ合う。


 リングどころかこのコロシアムが吹き飛ぶような事態にならなきゃいいがな。


 俺はくすりと笑いながら試合開始を待った。


 コルネリアが右手に木剣を持つ。


 これまでの試合で一度も構えることはなかったのに、ルシアが相手の場合はしっかりと構えた。


 剣身が中段でピタリと止まる。


 ルシアもまた、試合開始前に魔力を練り上げた。


 どちらも殺気を忘れていない。


 ビリビリと空気が震える。


 観客席にいるのにひりついた雰囲気を肌で感じる。


 それは司会の男性も同じなのか、やや困惑したまま試合開始を宣言した。




「そ、それでは——試合開始!」

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