第71話 成長
俺とシェイラに続いて、今度はルシアとコルネリアがオーラと魔法をぶつけ合う。
真っ先に動いたのはコルネリアだった。
オーラをその身の宿し、地面を蹴り上げる。
オーラによって強化された脚力が、ルシアとの間にあった距離を一足で潰した。
木剣を構えた状態のコルネリアがルシアの目の前に現れる。
しかし、コルネリアが剣を振るより先に、彼女の足下が赤く光った。
「——ッ⁉」
直後にコルネリアは光に包まれる。
赤い光だ。次いで、轟音。
それは前に俺がルシアにやられた魔法と同じだった。
設置型の地雷。
ルシア以外の人間が魔法の範囲に入った瞬間、それを検知して自動で爆発を起こす。
予め魔法の発動地点、威力、魔力の量を調整しないといけないやや面倒な魔法だが、その性能は近接戦闘に秀でたオーラ使いにはよく効く。
その証拠に、正面から爆発を受けたコルネリアは、爆風によってリングの端まで飛ばされてしまう。
「……やるじゃん。ちょっと熱かったかも」
「ルカといい、殿下といい、私の魔法を受けて平然としているなんて反則よ」
「頑丈なもので」
そう言ってコルネリアが再び剣を構える。
だが、今度はルシアが動いた。
彼女は頭上に三つもの球体を形成する。
どれも火属性の魔法だ。とんでもない魔力が込められている。
「この感じ……複合魔法ってやつか~」
「ええ。全部に風の魔法を組み合わせているわ。精々避けることね。リングの外まで」
「無理に決まってんじゃん!」
シェイラが先ほど使った火属性と風属性の魔法を組み合わせた複合魔法。
それをルシアは同時に三つも操った。
さすが魔法の天才。同じ天才でもシェイラとは比べ物にならないほど火力が高い。
あれを食らえばいくらコルネリアでも大ダメージを受ける。
だからこそ彼女はあえて前に出た。
特大のオーラをまとい、ルシアを自爆に巻き込ませるために。
けれど甘かった。
ルシアの足下には地雷が設置されている。
設置型の魔法は一度場所がバレると回避がしやすいという欠点を持つが、反対に一度発動すれば魔力制御する必要がないという利点もある。
要するに、他の魔法を使用中でも意識が割かれないし魔法は消えない。
コルネリアの進路をことごとく妨害する。
「チッ! 姑息な戦い方は変わらないね~!」
「姑息な人間に言われたくないわよ」
「言うねぇ。でも負けない。真正面から潰す!」
コルネリアは吠えた。もはや彼女は止まらない。
ルシアが仕掛けた地雷魔法を正面から食らい——さらに前に進んだ。
「なっ⁉ 化け物……!」
ここにきて作戦もクソもない。
コルネリアはオーラによる防御力上昇をこれでもかと利用していた。
ゴリ押しでルシアの戦法を突破する気だ。
正しい判断である。
ルシアはシェイラより火力に優れた魔法使いではあるが、オーラを集中的に磨いているコルネリアにいつも負けていた。
敗北の原因は火力不足。
ルシアでさえ、オーラの天才たるコルネリアの防御力は突破できない。
突破できなければ近付ける。
このままコルネリアの接近を許せば、自爆を回避するためにルシアは大技が出せなくなる。
やがてじり貧になって終了だな。
俺は変わらぬ勝敗に少しだけガッカリした。
リングの上という制限が逆にルシアの足を引っ張ったな。
そう思っていたが……。
「——ふふっ」
目の前に迫ったコルネリアを前に、ルシアは不敵な笑みを浮かべた。
次の瞬間。
頭上に浮かんでいた三つの太陽が、ほぼ同時にルシアとコルネリアの下に落ちた。
「はぁ?」
さすがのコルネリアも怪訝な声を零す。
そしてリングの上を業火が埋め尽くした。
凄まじい爆発音に爆風が観客席にまで届く。
観客たちは騒然とした。
視界が狭まり、またリングが破壊されたと困惑する。
おまけにとんでもない威力の魔法が炸裂した。下手するとどちらかが死んだのでは? と。
無論、あの程度の攻撃で死ぬほど彼女たちは柔じゃない。
だが、残念だ。
自爆攻撃に耐えられるほどルシアは頑丈じゃない。
例え生きていても重症。まともに立ち上れるほどの体力は残っていないだろう。
俺のため息と共に、次第に煙が空へ上がって視界がひらけてくる。
リングの上が確認できるようになると……。
「————⁉」
俺はわずかに目を見開いた。
「ふ、ふふ……あはは! 作戦成功ね」
辛うじてリングという形を保っていた中央エリアに、無傷のルシアが立っていた。
「あれだけの攻撃を至近距離で受けたにもかかわらず無傷? ……いや、違うな」
よく見ると彼女の足下にうっすらと黒い何かが見えた。
あれはルシアと戦った際に彼女が見せた封印指定魔法。
なるほど。
封印指定魔法の効果は二つ。
一つは魔力そのものを吸収すること。
もう一つは……傷の治療。
厳密には治療ではないのかもしれないが、どちらせよその能力を使って瞬時に回復したのか。
悪くない手だったな。少なくとも意外性はあった。
魔法の直撃を受けたコルネリアは、むくりとボロボロになった体を起こす。
表情には険しさがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます