第30話 イベントの始まり
イラリオが召喚した悪魔アスタロトを奪った翌日。
俺は普段通りに授業を受けてから訓練場に足を踏み入れた。
同じく魔法の訓練をしに来たコルネリアと共に、魔力の制御、操作訓練に入る。
「……アナタがルカの言ってた悪魔?」
「はい。アスタロトと申します。家畜のような人間にも私は話しかけて差し上げますよ」
「殺す」
「待て待て待て待て」
がしっと暴れ出そうとしたコルネリアの肩を掴む。
今日はアスタロトも一緒だ。最初こそじろじろアスタロトのことを見ていたコルネリアだったが、急に声をかけたと思ったらこれだ。
目の前で無駄な争いは止めてくれ。
「ルカ、私、コイツ嫌い」
「今のはたしかにアスタロトが悪いけど、お前も喧嘩なんてするな。時間の無駄だ」
「無駄⁉ 私は無駄だと言ったんですか、ルカ様⁉ あぁん!」
「興奮するな馬鹿」
ただでさえコルネリアの相手をするだけでも疲れるのに、そこにアスタロトが加わって頭痛の種が増えた。
めんどくさいからしばらく彼女には元の世界へ帰ってもらう。
契約を結んだ主人は、悪魔を送還できるのだ。
煙のようになってアスタロトが消えると、コルネリアは満足げに胸を張る。
「ふんっ。生意気な悪魔。あんな奴より私のほうが絶対にルカの役に立つよ!」
「あんなんでも最高位の悪魔なんだ。許してやってくれ」
「むぅ。しょうがない。妾の一人や二人くらい許す。そのうち殺すけど」
「今のお前じゃ勝てないよ」
つうか妾ってなんやねん。お前と結婚した覚えはないぞ。
俺たちはため口で話す仲にはなったが、そこまでは許してない。
「チッ。肌で感じた。あの悪魔は相当強い」
「悪魔の中でも最高位の存在だからな。俺と契約したから元の力に近い」
「それでも最後には私が勝つ。今勝てないなら、もっと強くなって殺せばいい」
そう言ってコルネリアはにやりと笑った。
実に俺好みの回答だな。
「なら、そのためにも訓練しろ。今日は面白いものを見せてやる」
「面白いもの?」
「オーラが使えるお前なら俺と同じことができるはずだ。難しいけど、覚えたらきっと役に立つぞ」
まだ彼女には見せていない強化魔法を目の前で披露する。
使った魔法は炎。それをオーラで包み、威力を底上げする。
その状態で放った火球は、設置されていた訓練場内の的を——粉々に吹き飛ばした。
普通の魔法より遥かに威力が増している。
「な、なにそれ……」
「俺は強化魔法って呼んでる。オーラの性質で魔力そのものを強化した感じだな」
「凄い! 初めて見た!」
「俺が知るかぎり誰も使ってない。お前も練習して強くなれ」
コルネリアが強くなれば強くなるほど、彼女をボコって俺が強くなれる。
オーラの訓練の時にはいろいろ世話になったし、今後も世話になるからこれくらいはお安い御用だ。
目に見えてコルネリアの感情が高まる。俺に抱き付き、一生懸命想いを伝えてきた。
「ありがとう、ルカ! 嬉しい……私だけは特別なんだね」
「まあ、そうとも言うな」
実はコルネリア以外にも今の強化魔法を教えた奴がいる。
シェイラ・カレラだ。
コルネリアにバレるとまた殺すとか言い出すだろうから秘密にしておく。
「えっと、魔法をオーラで強化する……強化!」
早速、コルネリアは掌に炎の魔法を浮かべてオーラを同時発動した。
彼女は昔から俺と一緒にオーラの訓練していた。その時、同時発動も試してみたりと技術だけならかなり俺に近い。
オーラと魔法の同時発動くらいならできるが……結果は、解りきっていた。
「——きゃッ⁉」
コルネリアの掌に浮かんでいた魔法が、オーラの強化に耐えきれず爆発した。
彼女の右手が吹き飛ぶ。
俺の時よりだいぶマシだな。威力を下げろと言っておいてよかった。
それでもぽたぽたと血が流れ、皮膚がわずかに焼け爛れている。
見た目は痛そうだな。
しかし、コルネリアは苦痛に悶えることはなかった。満面の笑みを浮かべている。
「これが強化魔法! 凄いよ、ルカ! 威力が何倍にも跳ね上がった! ちゃんと痛い!」
やはり彼女は俺に近しい感性を持っている。
そうだよな。ガチ勢なら喜ぶべきところだよな。例え手が吹き飛んでも嬉しいもんだよな。
内心でうんうんと頷きながら彼女の手を祈祷で癒す。
「だろ? お前ならすぐコントロールできるようになるはずだ。どんどん極めていけ。最初は強化魔法の訓練をしてればサクッと強くなれるぞ」
「そうする! ありがとね、ルカ。大好き」
ちゅ、とコルネリアにキスされる。今度は口だ。
「はいはい。コルネリアも有益な情報はどんどん流してくれよ」
「うん。それで言うと面白い話があるよ~」
「ほう?」
早速報酬が受け取れそうだな。
「どんな話だ」
「ルカが探してたオーラに関係する——」
ゴオオオオンッッッ!
コルネリアの言葉の途中、急に訓練場の扉が破壊された。
凄まじい衝撃を受けて吹き飛ぶ。壁に激突し、その場にいた俺たちを含める生徒たちは全員が入り口を見た。
煙の中から、複数の仮面を付けた怪しい集団が現れた。
黒ずくめの集団だ。彼らは手に武器を持ったまま告げる。
「学院の生徒共、お前たちを殺す。死にたくなかったら大人しく地面に這いつくばれ。特別に邪魔をしなきゃ活かしておいてやるかもしれないぞ?」
「アイツらは……」
この展開に敵の服装。実に見覚えがあった。
俺が待っていたイベントの始まりによく似ているな。やっと来たか、テロリスト共が。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ男たちを傍目に、俺はにやりと獰猛に笑った。
すると、入り口に近い所で生徒たちが武器を構えている姿が見える。
どうやら抵抗を選択したらしい。次々に侵入者たちに剣を振るが、レベルが低い。
逆に返り討ちに遭い、あっさりと数名の生徒が殺された。
そこからは悲鳴の嵐。抵抗する生徒が消えうせ、誰も彼もがその場にしゃがみ込んだ。
俺とコルネリアを除いて。
「おい! お前たちもさっさと這いつく……ん? お前の顔、どこかで見たな」
俺の下にやってきた一人の侵入者。じろじろと人の顔を見て何かを思い出そうとしている。
その間に俺は鞘から魔剣ムラマサを抜いた。
「ああ! そうだ、ルカ・サルバトーレか! ちょうどいい。お前は俺たちの標的なん——」
ひゅっ。
会話の途中、俺は素早く剣を振った。
男は反応すらできずに胴体を真横に両断される。
鈍い音を立てて崩れ落ちた侵入者。
それを見下ろし、俺は短くコルネリアに言った。
「とりあえず、この場にいる敵は全員殺すぞ」
彼女はにこりと笑って答える。
「はーい」
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