第31話 無価値で無意味なゴミ
学院の訓練場に足を踏み込んだ黒ずくめの不審者たち。
生徒を平然と斬り殺し、他の生徒たちも威圧する彼らに、俺とコルネリアは応じなかった。
愚かにも近づいてきた黒ずくめの一人を斬り殺し、その死体を一瞥することなく言った。
「とりあえず、この場にいる敵は全員殺すぞ」
コルネリアはにこりと笑って返事を返す。
「はーい」
お互いに剣を持った状態で黒ずくめたちに近づいていく。
当然、黒ずくめたちは動揺した。
同じ学生たちが目の前で殺されたにもかかわらず、眉一つ動かさない俺たちの態度に。
「き、貴様ら! 状況が解っているのか⁉」
「あ? 不審者が学院に侵入したんだろ。ありがとう。ちょうどムラマサで試し斬りがしたかったんだ。学生を襲うと怒られちゃうし、お前らなら殺しても誰も気にしない。本当に感謝してるよ」
満面の笑みを浮かべてそう言った。
黒ずくめの男たちは全員ドン引きしている。
だが、唯一コルネリアだけは反応が違った。
「あはは! よかったね、ルカ。ルカが嬉しいと私も嬉しいなぁ!」
「コルネリアは強化魔法使うなよ。怪我するぞ」
「解ってる解ってる。ルカのためにも、私は少しだけでいいよ~」
「マジで?」
「マジマジ」
「サンキュー。コルネリア最高」
「ッッッ! う、嬉しいなぁ」
俺に感謝されてコルネリアの顔が真っ赤になっていた。
ニマニマと嬉しそうに頬が緩んでいる。
まるで目の前に敵がいないかのような空気が流れ、黒ずくめたちの気分を害する。
「くっ! 舐めるな、ガキが! お前、ルカ・サルバトーレだな?」
「だったらどうした。俺は地面に這いつくばってても殺すぞ」
「俺たちに手を出したら、こいつらがどうなるかな?」
「ひっ⁉」
黒ずくめの一人が、俺の正面で、近くにいた女子生徒の首に剣を当てる。
何がしたいかは明白だな。
「動いたら殺すってか?」
「ああそうだ。このタイミングでお前と会えたのは僥倖だ。本当は少しばかり戦ってみたかったが、その強さに敬意を表す。黙って死んでくれ」
「断る」
右手を前に突き出して、水属性の魔法を発動する。
掌に浮かび上がった水が凍り、鋭い氷柱のように変化した。
これもまた水属性の魔法だ。オーラで強度を底上げし、狙いをつけて——発射。
弾丸のように氷は、正面の男の顔面を貫いた。
鈍い音を立てて男が倒れる。顔からは大量の血が流れていた。
人質になっていた女性にも血がかかり、彼女は叫ぶ。
「いやあああああ⁉」
その悲鳴を聞いて、他の黒ずくめたちは人質が意味を成さないことに気づく。
慌てて俺の傍に駆けた。数で押し切る戦法だ。
それに対して俺は、つい最近解放されたばかりのムラマサの力を使う。
ムラマサに籠められた呪詛を解き放ち、負のオーラを周囲にばら撒く。
無論、効果範囲は極限まで狭めた。負のオーラに触れたのは……黒ずくめたちだけ。
剣を構えていた彼らは、同時に足を止めてその場に膝を突く。
中には、口から泡を吹いて倒れる者もいた。
「な、んだ……これは……」
「恐怖だよ。お前たちは今、俺の呪詛に当てられて恐怖を抱いている」
これは本能的なものだ。怖くないと自分に言い聞かせても無駄。
呪詛に対する抵抗力が低いと、強制的に効果を受ける。
オーラや祈祷でも防げるが、彼らのレベルでは防御できなかったらしい。
ガクガクと全身が震えていた。目から涙を流している。
「襲撃し、殺し、人質を取るまではいいが……最後まで油断するなよ」
俺からしたら人質の価値はない。
例えコルネリアやシェイラが捕まっていても結果は同じだ。
俺が動かずに負けた後、人質が助かる保証なんてない。俺が行動した結果死のうと同じこと。
なら、最初から人質なんていなかったことにすればいい。
躊躇すれば無駄に犠牲者が増えるだけだ。全てを救えるなんて理想論を語れるのは、物語の主人公だけ。
俺は、そんなはちみつみたいな甘いことは言わない。第一、捕まってる奴が自分の命可愛さにこっちの命を捨てろと言ってるようなもんだぞ?
俺が自分の命を優先して何が悪い。
「やるなら徹底的に。悪事の基本だぞ?」
そう言って俺は、周囲に倒れる黒ずくめたちの首を全員刎ねた。
情報はあるし、あえて生かしておく必要はない。
人質は無視するが、わざと彼らを死なせたいとも思わないしな。
すぐに訓練場内に静寂が戻った。
コルネリアのほうも、無事に数名の侵入者を殺す。
生首持ってこっちにきた。くんな。
「お疲れ様、ルカ。どう? その刀の試し斬りはできた?」
「ああ。何人か胴体を斬ってみた感じ、ちゃんと呪いは発動してた。苦しむ様子から、毒に似た効果まであるっぽいな」
「へぇ! 凄いね。こいつらもルカの検証に付き合えて嬉しかっただろうなぁ」
恍惚の表情を浮かべてコルネリアは足元の死体を踏みつける。
「——って、それはそうと、この後どうする? 雰囲気的に、学院内に他の黒ずくめたちがいるよね?」
「ああ。何人もいるだろうな。殲滅するのは骨が折れるし、リーダーを狙おう」
「頭を潰すのは効果的だね。集る蠅を一々払ってたらキリがないし」
「そういうこと」
こくりと頷いて俺とコルネリアは訓練場の出入り口へ向かった。
すると、近くで這いつくばっていた男子生徒の一人が、声を荒げて叫ぶ。
「お、おい! 俺たちが殺されそうになってたのに、なんで暴れたりしたんだ! 殺されてたかもしれないんだぞ⁉」
「は?」
なんだこいつ。頭でも沸いてんのか?
今さら責任云々と俺に言いたいらしい。一発殴ってやろうかと思ったら、それより先にコルネリアが剣を抜いた。
「うるさいなぁ。誰? 無様に命乞いしておいて。助かりたかったら自分で戦いなよ。ゴミゴミゴミ」
「ッ⁉」
本気の殺気をコルネリアはぶつける。
このままだとマジで殺しそうな雰囲気だな。
「雑魚ってすぐ他人を頼るから嫌になる。他人に寄生して、嫌なことはその人のせいにする。自分じゃ何もできないくせに、口だけは達者。偉そう。生きてる価値ないじゃん。なんで生きてるの?」
コルネリアが剣を構える。
それを見て、男子生徒は掠れた悲鳴を漏らした。
俺は彼女の手を掴んで止める。
「やめろ、コルネリア」
「止めないで、ルカ。見せしめに殺そう。生首を実家に送ってあげないと」
「無意味だ。そいつが死のうとどうでもいいが、時間を浪費するな。俺たちの目的はあくまでも敵の排除。後々のことを考えると殺さないほうが楽だぞ」
「むぅ……はあい。残念」
本当に残念そうに剣を鞘に納め、——その男子生徒の顔面を蹴り飛ばした。
凄まじい衝撃を受けて男子生徒は地面を転がり、やがてぴたりと動きを止める。
意識が刈り取られていた。
まあいいか。あれくらいなら可愛いいもんだろ。
俺は特に何か言うわけでもなく、コルネリアの手を引っ張って訓練場を出た。
なぜか、やけにコルネリアの機嫌がよかった。
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