第32話 主人公現る
訓練場に入ってきた黒ずくめたちを倒し、コルネリアと共に学院のある場所へ向かっていた。
そこは、空き教室の並ぶ一角だ。奥まで進み、何の変哲もない一室に入る。
「ルカ? こんな所に用があるの?」
背後では不思議そうにコルネリアが首を傾げた。
俺は正面の壁をペタペタと触りながら答える。
「ああ。俺の記憶が正しければ、おそらくこの辺りに……おっ、あったあった」
石造りの壁に触れると、小さな四角形を描くように壁の一部が押し込まれた。
大きな音を立てて隠し扉が開く。
「な、何これ……隠し通路?」
「学院の倉庫に繋がる通路だ。この先に、普段はほとんど使われない貴重品が山ほど眠ってる」
「なんでルカはそんなこと知ってるの?」
「偶然耳にしただけだよ。コルネリアはどうする? この先にはもう敵が潜り込んでると思う。戦闘になるぞ」
「もちろん行くよー! ルカが殺すなら私も殺す。ルカが死ぬなら私も死ぬ。それくらいの覚悟はあるもん」
「なに言ってんだ」
ハァ、とため息を吐く。
やや悲しそうにコルネリアは瞳を伏せた。
しかし、俺は告げる。
「俺もお前も死なないよ。敵は皆殺しだ。最後に勝てばなんでもいい」
「ルカ……!」
俺の言いたいことを即座に理解したのか、コルネリアは嬉しそうに声を上げた。
俺もコルネリアも死なない。俺たちは奪われる側ではなく、奪う側なのだ。
それを彼女はまだ理解できていない。だから俺は呆れた。
死ぬ覚悟などする必要はない、と。
きゃーきゃーうるさいコルネリアと共に、俺たちは薄暗い隠し通路の先を目指した。
☆
隠し通路をまっすぐ進んでいく。
幸いにも単純な構造だった。特に迷うことなく、倉庫の傍にいる敵を発見する。
「あ、敵いるね」
「そうだな。見たとこ侵入者対策の見張りか」
「どうする? 突っ込む?」
「……いや。俺の目的地は正面の倉庫じゃない。左側に倉庫だ。あそこまでならゆっくり行けば見つかることはないだろ」
「左……あの寂れた扉の所?」
「ああ」
俺はゆっくりと左側にある扉へ近づいた。
バレていない。
扉はすでに開かれている。ここも侵入者たちは調べたのかな?
とにかく、問題なく見張りの目を掻い潜って中に入った。
そこは昔に使われていた倉庫の一つ。
荒らされ、床にはゴミが散乱していた。
「こんな汚い所に何があるの? ルカ」
「かつて研究者が作った幻の薬があるのさ」
「薬? それを探しに来たってこと?」
「正解。その薬を飲めばオーラの総量が上がるらしい。俺にピッタリだ」
ゲーム時代は攻略情報をもらって探しに行った。そしてこの部屋でその薬を見つけ、飲んだらちゃんとパワーアップした。
「へぇ! そんな凄い薬があるんだ。いいなぁ」
「新しく見つけたらお前にやるよ」
「いいの⁉」
「その薬、一人につき一度しか効果を発揮しないからな」
二つ目からはサブ垢とか別の活用方法が生まれる。
が、今世はサブ垢なんて概念ないし、錬金系に使おうにもその手の才能は俺にはない。
仮にあっても別にそこまで凄いアイテムでもないしなぁ。
だったら、一つはコルネリアにやって彼女を強くしたほうがいい。
「やったー! ルカ愛してる!」
一応、周りに気を使って小さな声でそう言ったコルネリア。
俺は適当に返事を返しながら薬を探す。
「はいはい、サンキューサンキュー……ん?」
なんか棚の奥に不思議な感触があった。それを押したり叩いたり横にズラしてみる。
すると、横に何かがスライドした。
ガコン、という音を立てて何かが出てくる。
小さな箱だ。開けると、中には……、
「お、ラッキー。見っけ」
目当てのアイテムを発見した。
ゲームだとこの辺りにカーソルを合わせてクリックしまくると見つけられたからな。必ずあると信じていた。
おそらく設定的には、薬を作った奴が隠しておいたんだろう。
普通に反則級のアイテムだからな。
「ほら、コルネリアやるよ。二個あったから」
「わー! ありがとう、ルカ」
ぽいっと後ろにいるコルネリアに小さな瓶を投げて渡した。
彼女はそれをキャッチすると、何の躊躇いもなく中の液体を飲み干した。
直後、彼女の体からわずかにオーラが漏れ出る。
「どうだ、感触は」
「うん。解るよ。オーラの量が増えた気がする」
「予想通りの結果だな」
俺も彼女に続いて中の液体を飲み干す。
コルネリアと同じように内側からオーラが溢れてくる感覚を抱いた。
間違いなくオーラが増えている。
「よし。パワーアップもしたし、制御がてら正面倉庫にいる敵でも殺しに行こうか」
「はーい。ムラマサだっけ? その剣の試し斬りする?」
「いや、今回はコルネリアも好きに暴れていいぞ。どうせ敵は余るほどいるだろうからな」
「了解。沢山殺したら褒めてくれる?」
「褒める褒める」
頭をずいっと差し出してきたコルネリア。彼女の頭を優しく撫でてあげる。
コルネリアは嬉しそうにはにかんだ。まるで犬だな。
「じゃあ行こっか。楽しみだなぁ」
踊るように来た道を戻って部屋を出る——直前、俺とコルネリアは同時に足を止めた。
さっと扉の隅に隠れる。
「お前たち、ここで何をしてる!」
大きな声が部屋の外から聞こえてきた。
この声は……。
ちらりと出入り口から外を除くと、正面入り口傍にいる黒ずくめたちと対峙するように、ばりばり見覚えのある青年の姿が見えた。
金髪の男性。自信のある表情を浮かべ、剣の切っ先を黒ずめの男たちに向けていた。
彼の名前は——。
「エイデンか」
この世界の主人公と思われる初期アバターの青年エイデン。
彼がなぜここにいるのか。
俺は、慎重に彼の様子を観察する。
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