第35話 ※ルカは本作の主人公です

 ぱたりとバンダナ男が倒れる。

 男の顔には強い苦悶の色が浮かんでいた。


 よほどムラマサが与えた呪いが強力だったのだろう。ぴくりとも動かない。

 確実に絶命していた。


「他愛ないな。もう少し遊べるかと思ったけど」


 バンダナ男から視線を外し、魔剣ムラマサを鞘に納める。

 すると、離れた所で他の黒ずくめたちを襲っていたコルネリアが、犬みたいな勢いで俺の傍に戻ってくる。

 他の連中は見事に全滅していた。


「お疲れ様——! さすがルカだね、凄く強かった! カッコいい!」


 彼女のお尻から犬の尻尾が生えているように見えた。もちろん幻視。

 普段どおりの彼女の頭を撫でる。


「コルネリアもお疲れ様。俺の代わりに黒ずくめたちの掃討ありがとうな」

「ううん、いいの。あいつらルカの邪魔をしようとしたんだよ? 許せないよね」


 バンダナ男との戦いに他の連中が加わらなかったのは、コルネリアが都度妨害していたからだ。

 番犬レベルに使えるな、コルネリア。


 嬉しそうに表情を緩める彼女を見ていると、黒ずくめたちを全滅させた人物とは思えない。

 笑ってる分には、まともなんだがな。


「そんな馬鹿な……あんな簡単に倒すなんて。俺は、ぜんぜん勝てなくて……」


 コルネリアの背後では、地面に膝を突いたままの原作主人公エイデンが俯いていた。

 表情こそ見えないが、わずかに聞こえてくる声から落ち込んでいるのが分かる。


 特に声をかける必要性は感じない。

 俺にとって主人公は生きてさえいればいい存在だ。

 心に鞭を打つ必要はなく、かといって励ます義理もない。

 すぐに視線を背後のバンダナ男へ戻した。


 ここから先はお待ちかねのボーナスタイムだ。当然、あの男を倒した俺にドロップアイテムの入手権利がある。


 ほどほどにコルネリアを撫でたあと、彼女に黒ずくめたちの持ち物を回収するよう頼んだ。

 彼女が嬉々として駆けだしたのを見送って、俺はバンダナ男の死体を漁る。


「ふんふん。呪いの短剣は論外として、意外とアイテム持ってるじゃねぇか」


 ごそごそとバンダナ男の懐をまさぐる。次から次へと特殊な効果を秘めたアイテムが見つかった。

 中にはオーラ以外の能力を強化してくれる物まである。


 恐らく学院の倉庫で回収したアイテムだろう。すでに倉庫から離れ、バンダナ男が持っているってことは、バンダナ男を倒した俺の物ってことだよな?

 勝手に超絶理論をぶちかましてアイテムを奪う。


 地面に落ちた短剣はスルーだ。あんな粗悪品、あらゆる点でムラマサの下位互換でしかない。

 悪魔と契約し、ムラマサに認められた俺の精神力なら汚染されることはないが、持っててもなんかきしょいし、いらん。


 あらかたアイテムを奪い終えると、作業中のコルネリアに声をかける。


「おーい、コルネリア。もうそのへんでいいよ。あとは学院の教師共が勝手にやってくれるだろ」

「そうー? もったいなくない?」

「バンダナ男からそれなりに回収できた。充分さ」

「そっか。じゃあ帰ろう。いつまでもここにしても面白くないし」

「だな。やるべきことは終わった。校舎内に残党がいた場合、そいつらでも狩って遊ぼう」

「さんせーい!」


 俺の腕を抱き締めるコルネリアと共に、いまだ顔を上げないエイデンを放置して隠し部屋から出た。

 なるべく隠し部屋から離れた所で、コルネリアと一緒にアイテムの確認作業を行う。


 うはうはだ。











 モノクロの剣、最初のイベントが終了する。

 学院内に侵入した賊たちは、教師の尽力もあり、ほとんど排除することに成功した。


 教師たちの話によると、数名逃げられたらしいが、敵主力を俺とコルネリアが壊滅させたこともあり、犠牲者は最小限で済んだとか。

 その侵入者たちから奪ったアイテムをコルネリアと山分けし、教師にバレる前に俺たちは別れた。


 現在、俺は寮の一角、自室のベッドに寝転がっている。

 俺の隣には、わざわざ寝転がるアスタロトの姿があった。


「あの薄汚い短剣を持ち帰らなかったのは英断ですね、ルカ様」

「ん? ああ……持ってても邪魔だからな」

「あんな物がなくても私がルカ様の敵を呪い殺してみせましょう。お任せください」

「いや別にいい」

「あんっ!」


 いつものようにぞんざいに扱うと彼女は興奮したような声を出す。

 耳元で急に大きな声を上げないでほしい。うるさい。


「いけずです、ルカ様ったら」

「俺の敵は俺のもんだ。あくまでお前は選択肢の一つ。余計なことするなよ」

「ふふっ。分かっていますとも。ルカ様ならそう言うと最初から知っていました」

「じゃあなんで訊いたんだよ」

「冷たくされたくて……!」

「きしょ」

「ああんっ!」


 さらに興奮を隠せないアスタロト。

 適当に彼女に合わせてやったが、こんなんで喜ぶなんてお手軽な奴だなぁ。

 俺としては制御しやすくて助かるけど。


 そんなことを考えながら手にしたアイテムを眺める。

 これらもアスタロトと同じだ。俺の力を高めるための道具にすぎない。

 アイテムが奥の手になったら終わりだ。アイテムに頼りすぎるのもな。


『よかったわねぇ、ルカ。沢山玩具が増えて』


 先ほどまで静かにしていたリリスが、俺の頭上でぷかぷか浮かびながらくすりと笑った。

 ちらりと視線を上に向ける。


「まあな。欲しかったのは一つくらいだけど、追加で使えそうなのがあったから運がいい」

『またしばらくは鍛錬?』

「もちろん。それに加えて、来月行われるに出る予定だ」

『武術大会?』


 リリスは首を傾げて疑問符を浮かべる。

 俺はにやりと笑って答えた。




「王都の西区にあるコロシアムで行われる、最高の催しだよ」


———————————

これにて二章終了

テンポよく物語を進ませているので、章ごとの区切りが早いですねぇ

(これでも遅いほうではありますが)

次回、幕間を挟んで三章に移ります。次なる舞台はコロシアム。そして——?

今後とも読者の皆様に見ていただけると嬉しいです!

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