幕 間 ルカに対する想いは負けない

「…………」


 ある日の夜。


 飲食店の一角に集まった三人の女性たちは、どこか剣呑な眼差しでお互い見つめ合っていた。


 席に座るのはコルネリア、シェイラ、ルシアの三人。


 顔見知りの三人は、運ばれてきた料理を食べながら会話する。


「ルカの活躍、凄かったね」


 最初に話題を切り出したのは、この中でもっともルカと長い時間を過ごしたコルネリア・ゼーハバルトだった。


 彼女は皇族ではあるが、意外と自由に生活している。彼女たちに呼ばれれば、夜遅くであろうと足を運ぶくらいには好き勝手していた。


「そうですね。ルカ様と戦えてよかったです。もっともっと魔法の可能性に気付けた」


 コルネリアの言葉に同意を示したのは、右隣に座るシェイラ・カレラ。


 実はコルネリアやルシアより年上で、二人より早く学院に通っていた魔法の天才。


 両親は揃って平凡。そんな両親から生まれた天才とあって、周囲からは物珍しい目を向けられる。


 だが、彼女はあくまでルシアとは違い、魔法そのものに興味があるだけで、自分自身が強くなろうとはそこまで思っていなかった。


 いわゆる学者肌の人物だ。


 ルカはそんな彼女の知能を高く買っている。他にも、シェイラは原作に登場するヒロインの一人。本来は主人公のエイデンと行動を共にするはずが、ルカの才能に惚れこみ、最近ではべったりくっ付いていた。


「ふんっ。次こそは私が勝つわ。いつまでもルカの独走を許しておけないもの」


 シェイラのさらに右隣、コルネリアの左隣に座っていたルシアが、頬を膨らませたあとに勢いよく肉を噛み砕いた。


 彼女はコルネリアに続いて古参だ。共にした時間はシェイラよりも短いが、因縁の長さだけは誰よりも長い。


 かつてはルカに対して悪印象を持っていたが、ルカに救われたことで考えを改めている。


 今でも勝気な性格は変わらないが、ルカに対して一定の敬意と好意を向けている。それは、彼女のツンデレを見れば誰にだって分かった。


「ぷぷー。ルシアがルカに勝つ前に私がルカに勝つけどねぇ。まずは私を超えなきゃ」


「うっさいわね! 皇女様のくせに笑い方がはしたないわよ!」


「それを言うならルシアだって言葉遣いが乱暴じゃん」


「私はいいのよ。舐められるわけにはいかないでしょ」


「どうだか。魔法ばっかり勉強してるから教養が抜けちゃうんだよ~」


「イラッ。あんたにだけは言われたくないわ」


 バチバチといつものように張り合うルシアとコルネリア。


 彼女たちはルカでさえ手を焼くほど仲が悪かった。


 共にルカを師と仰ぎ、ルカに好意を寄せているからこそ慣れ合うことができない。


 自分こそがルカにとって一番の存在だと信じている。


「私はルカとラブラブだしなぁ。コロシアムでも、決勝で当たったのは私だったし」


「ぐぬぬぬ……! 運よくルカとぶつかってないだけのくせにぃ!」


「運も実力の内ですよ~だ」


 ニヤニヤと嘲笑するコルネリアに、鬼のような形相で彼女を睨むルシア。


 そんな二人を眺めながらため息を吐くのは、会話になかなか入れないシェイラだった。


 シェイラは二人ほど二人に対する嫉妬心はない。


 この中でもっとも格下であることを理解しているがゆえに、別に自分は二番目、三番目でもいいと考えている。


 ルカのそばにいられればそれでいい。シェイラの気持ちはすでに固まっていた。


「魔法の火力は私のほうが上! 絶対に、絶対に次こそはあんたもルカもぶっ飛ばす!」


「無理無理。私もルカもオーラのスペシャリストだよ? 絶対に斬り裂いてあげるよ」


「——ひよこ同士の喧嘩は、見る分には面白いですね」


「「「ッ⁉」」」


 突然割って入ってきた女性の声に、コルネリアもルシアもシェイラもびくりと肩を震わせた。


 同時に三つの視線が横へ向く。


 そこに立っていたのは……忘れもしない、ルカ・サルバトーレの実の姉、ノルン・サルバトーレだった。


 サルバトーレ公爵家において当主を除いてもっとも強いと言われる最高クラスのオーラの使い手。


 その強さは、トーナメント戦において全試合を素手によるワンパンKOで制したほど。


 彼女が参加したのは成人以上の様々な能力の使い手たちが参加した部だ。そこで全員を秒殺。しかもワンパン。武器も使わず、オーラもほぼ使っていなかった。


 要するにコルネリアたちより全てが優れている。完成した人間とも言える。


 優勝した彼女が壇上で「武器を使わなかった理由は?」という質問にどう返したのか。答えは非常にシンプルだった。


『武器を使えば相手を殺してしまうから』


 と。


 例え木剣だろうと関係ない。最愛の弟にカッコいいところを見せるため、なるべくトーナメント戦が中止にならないよう、それでいて圧倒的な力を見せる選択肢を選んだのだ。


 何もかもが規格外の存在。そんな彼女が、コルネリアたちを嘲笑する。


「偶然にもあなた方の姿が見えたので声をかけましたが……全員失格です。その程度の強さでルカに釣り合うとでも? 笑わせないでください」


 くすくすと小さく笑ったあと、彼女はとどめの一撃をぶち込む。


「ルカの相手に相応しいのは、私を倒せるくらいの強さを持つ人間か、私くらいでしょうね。ふふ」


「…………」


 三人とも無言で引いた。


 そんな奴、いるわけないだろ、と。


 そもそも自分たちはだいぶ若い。その若者相手に容赦のない言葉を投げるあたり……この女は確実にルカを誰にも渡す気はないのだと理解した。


 立ち去るノルンの背中を見つめながら、三人が同時にため息を吐いた。

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