第77話 クーデター起きろ
無事に俺とコルネリア、シェイラとルシアのトーナメント戦が終わった。
全ての試合が終了し、コロシアムから多くの参加者たちが出ていく。
無論、その中には俺たちの姿もあった。表彰式もつつがなく終わり、優勝賞品を受け取ってさっさと学院の寮へ帰る。
今回、俺が入手したのはエメラルドグリーンの宝石がはめられた指輪だ。
なんでも、かつて滅びた国の王女が持っていた遺品で、それはもう価値の高い、今では採取不可能な鉱石によって作られた逸品だと言う。
そんなもんをコロシアムの景品にするなとツッコみたいところだが、宝石はわずかに汚れ、一ヵ所欠けている部分がある。ゆえに価値はないんだと。
だが俺は、この指輪がどの宝石よりも価値が高いことを知っている。なんせこの指輪は、装備した者の能力を向上してくれる特別な加護が備わっているのだ。
どうしてそんな力が備わっているのか、そんなこと俺が知ったこっちゃない。大事なのは、ゲームでは全ての能力値に+補正を得られるという点。
要するに、この指輪を装備していれば、オーラに魔法、祈祷に呪詛、もれなく召喚術まで一段階効果が上がる。
装備した瞬間に理解したよ。この指輪は本物だと。
「ククク……これで次はアレを行えるな」
「ん? どうしたのルカ。楽しそうだね」
「ああ。この上なく嬉しいよ。今後の計画もどんどん前倒しにできる」
「ふーん? よく分かんないけど、ルカが嬉しいなら私も嬉しいなぁ」
意味不明ながらも本当ににっこり笑うコルネリア。
先ほどまで俺にボコられてしょげていた人物と同じには見えない。
しかし、気持ちを切り替えられるなら彼女はさらに強くなれるだろう。大事なのは反省することで引きずることじゃない。むしろ前だけ向くほうが人は成長できる。
「私はそれより、さっきのルカの発言が気になるけどね」
「何のことだ、ルシア」
コルネリアの隣を歩くルシア・モルガンが、空を見上げながら呟いた。
「西にあるゾラ連邦だっけ? そこって亜人が住む危険領域じゃない」
「亜人の何が危険だって言うんだ。一応、国家として運営されているんだぞ」
「あくまで表向きはね。実際は人間差別の激しい国だって有名じゃない」
「それはしょうがないな。自分たちがされてきたことをやり返してるにすぎない」
「むっ。ルカは亜人の味方をするの?」
「そういうわけでもないさ。ルシアが亜人にあまりいい印象を持っていないように、俺もまた亜人にはそこまで思い入れはない」
ゲームでも亜人の連中には何度もムカついた。態度はデカいし口が軽い。本当にろくでもない奴らが多い。
「けど、俺の目的はあくまでゾラ連邦だ。亜人たちが起こすイベントに興味がある」
「出たわね、それ。なんで他国に行ったこともないルカが、ゾラ連邦で起こる何かを知ってるのかしら。絶対面倒事でしょ」
「まあな」
にやりと俺は笑う。
前世の知識など言えるはずがない。言っても誰も信じられないはずだ。
余計な軋轢を生むわけにはいかず、俺は彼女たちにすら自らの話をしていない。
薄々何かを隠していることはバレているが、コルネリアを始めとした彼女たちは、深くまで訊こうとはしなかった。人間ができてる連中だよ。
「断言はできないが、近いうちに必ずゾラ連邦でクーデターが起こるはずだ。保守派を廃して人間たちに復讐しろ、という勢力がな」
「なんでわざわざ人間に? 勝てると思ってるの?」
「思ってるんだろうな、きっと」
この世界には人間以外の種族も多くいる。
魔法を得意とするエルフ。
鍛冶を得意とするドワーフ。
身体能力や五感に優れた獣人。
水中で自由自在に動き回れる人魚。
極東で暮らす呪詛を得意とした鬼人。
他にも巨人やらダークエルフやら細かく分けるとキリがないくらいには多種多様な種族が生きている。
だが、全ての種族で頂点に立つのが、圧倒的な繁殖力を持つ人間だ。
普通の人間は亜人に劣っている。どう頑張っても勝てない。
けれどオーラなどが使える場合は異なる。種族間にある差をオーラなどが埋めてくれるため、より数が多い人間が世界を支配していると言っても過言ではない。
だから亜人は人間を嫌っている。絶対に勝てない悪だと考え、実際に虐げられた過去を持っているから。
しかし、中には飛び切りの馬鹿がいる。自分たちのほうが優れている——と吹き込まれ、それを信じてしまう愚かな亜人がな……。
そいつのせいでほぼ確実に起こるはずだ。ゾラ連邦でのクーデター。
平和主義の者を廃し、自らが旗頭となって人間を駆逐しようとする馬鹿が、必ず現れるはずなのだ。
裏で手を引いてるとある種族も含めて、俺は大量の経験とアイテムを強奪してやる。
ついでにコルネリアたちのレベルアップも図る予定だ。
大量の亜人たちと命懸けで殺し合いを演じれば、コルネリアたちの技術もかなり上がるはず。
さらにさらに、俺がいまだ習得していない召喚術に関してだが……実は、大きな手掛かりがゾラ連邦にあるのだ。
ゲームでは不可能だったある存在を、俺は召喚してみせる。そのためにも、クーデター起きろ。
内心でそう願わずにはいられなかった。
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