第20話 原作ヒロイン
初日の授業の一環で原作主人公エイデンと戦うことになった。
エイデンは俺と同じく『オーラ』『祈祷』『魔法』の三つの能力が使える。
恐らく呪詛のほうも使えるだろう。しかし、彼は選択を見誤った。
なんでもできる万能タイプが最強になれるのは、全てのステータスが特化タイプと並んだ場合のみだ。
そうでもなきゃ器用貧乏。全てのステータスが軒並み低い状態になる。
それじゃいくら手数が多くても無意味だ。
俺が魔法と呪詛を使わないのはそういうワケ。
「お、おい……今の試合見たか?」
俺の周りではガヤガヤと試合を見守っていた生徒たちが騒ぐ。
「さすがサルバトーレ家の天才。特待生も相当強かったが相手にならなかったな」
「ルカ様カッコいい……!」
「容姿端麗。文武両道の天才よ!」
「あんなのと同じ世代とかふざけてやがる。やる気下がるわー」
俺に対する評価はそれぞれだな。
主に女子生徒の大半が俺を推している。
いいからさっさとお前らも試合しろよ。
嫌味を籠めて連中を睨む。
俺は試合が終わったので隅のほうで休むことにした。
すると、そこへコルネリアがやってくる。
「お疲れ様ー、ルカ」
壁に背を預けた俺の隣に並ぶ。
「殿下は試合しなくていいんですか」
「後でいいよそんなの。どうせ雑魚ばっかりだし」
「中には面白い相手がいるかもしれませんよ」
「えー? いないない。私を楽しませられるのはルカだけ。凡人なんて潰しても時間の無駄だし」
凄いこと言ってるなこの子。
気持ちは解るが、そんな態度じゃクラスで孤立するぞ?
本人は別に孤立しても俺がいればいいとか思ってそうだけど。
「それより、あの特待生傑作だったね」
くすくすっと教師に運ばれていくエイデンを見送ってコルネリアが笑う。
「才能はあるみたいだけど全体的に能力値が低すぎるよ。私やルカみたいにオーラを鍛えてる人には勝てない。馬鹿だなぁ」
お前ヒロインだよな?
完全に立場が
まあ、主人公からヒロインを奪わない——なんて温い心情は持ち合わせちゃいないけどな。
別にコルネリアが嫌いでも好きでもない。
ただ、
その結果、主人公が死んでシナリオが変わろうと俺の知ったこっちゃない。
俺には俺の道が、未来がある。
自分のために好き勝手に生きてやる。
「せめて召喚術くらい覚えればいいのに」
「召喚術は全ての能力の中でも特に習得が難しい……というか特殊ですからね。彼も苦労したんでしょう」
むしろシナリオ序盤の時点で三つの能力をあそこまで操れるのが凄い。
本来はゲームの設定上レベル1だからな。
相当頑張ったと言える。
方向性は間違えているが。
「ルカは召喚術覚えないの?」
「俺ですか? そうですね……今のところ魅力を感じません」
「へー」
召喚術は特殊な生き物を呼び出して使役する能力。
より強い個体を呼び出すにはそれだけ縁や時間を必要とする。
そんなことに時間を割くくらいなら他に上げたい能力がある。
それは——。
「じゃあ、次のルカの目標はなに?」
「魔法です」
ルシア・モルガンが使っていたあの奇跡の恩寵。
あの時、俺は膨大な魔力の塊を生身に受けた。
おかげで魔法を発動するのに必要な『魔力』の感覚を掴み、魔法の適性を覚醒させた。
だが、まだ一度も魔法発動までいってない。
今日、この日、学院に入学してから始めようと思っていた。
なぜならこの学院には、サルバトーレ家の屋敷にはない大量の『魔法書』が置いてあるからな。
ゆえに七年間スルーし続けた。
「魔法かぁ。そんな気はしてたよ」
「近接はオーラ。補助に祈祷。あとは遠距離の魔法さえ覚えれば今後の戦闘で安定しますからね」
「うんうん。私も魔法は使えるけどまだまだ初級とかそんなもんだし、一緒に勉強してもいい?」
「邪魔にならなければ」
「やったー! だからルカが好き」
ちゅっ、といきなりコルネリアにキスされる。
「今、授業中ですよ」
ぶっちゃけもう慣れた。七年間でどれだけキスをされたと思ってる。
貞操を奪われかけたこともあった。
普通、ライバル兼公爵子息に毒を盛るか? 祈祷もしくはオーラが使えなかったらヤバかったな。
「いいのいいの。有象無象なんて気にしない気にしない」
コルネリアはそう言って俺の腕を抱き締める。
柔らかい感触が少しだけ心地よかった。男の子だもん。
☆
エイデンとの試合の後、他の生徒の試合を眺めながら初日の授業は終わった。
初日からガチンコでぶつかった結果、クラス内にある程度のカーストみたいなものが生まれる。
頂点は俺とコルネリアだ。頭一つ分以上抜けている。
他はまちまち。エイデンの評価もかなり分かれている。
平民だから見下す奴。平民でも実力があるなら認める奴。
そういうグループみたいなものがもう作られていた。
実にくだらない。
そんなことより修行だ。
俺は声をかけてきたクラスメイトたちの誘いを断って教室を出る。
真っ先に向かったのは男子寮——ではなく、教室などがある校舎を出た先にある白亜の塔だった。
塔の名前は魔塔。魔法使いたちの領域。
沢山の魔法書を揃えている通称『ライブラリー』。
ここで魔法の習得、および訓練を行う。
中に続く扉に手をかけ、——その直後に、背後から声をかけられた。
「ねぇ、あなた」
「ん?」
近くには他に生徒はいない。
たぶん俺のことだろうと思って振り返る。
すると、俺の背後にいたのは……。
「……シェイラか、お前?」
忘れもしない。メインシナリオに登場するヒロイン的ポジションのキャラクター。
シェイラ・カレラがいた。
ルシア・モルガンを除けば世界最高峰の才能を持つ魔法使い!
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