第66話 期待外れだな
トーナメント戦の受付を行う。
それぞれ数字の書かれた紙を受付でもらい、それを持ってコロシアムの中に入る。
すでにコロシアムの中には多くの参加者たちで賑わっていた。
果たして初戦は誰が相手になるのか。
俺は胸を躍らせながらトーナメント戦が始まるのを待った。
▼△▼
時間にしておよそ三十分。
主催側の準備が整ったのか、とうとうトーナメント戦が始まる。
順次司会の男性に呼ばれた参加者たちが中央のリング上でしのぎを削る。
武器は木製の物とはいえ、そこそこオーラが使えれば人間など簡単に殺せてしまう。
ゆえに、初っ端からずいぶん殺伐とした試合が続いていた。
「私の番はまだかな~」
俺の隣に座ったコルネリアが、人の腕を抱き締めながら鼻歌を奏でる。
むにむにと柔らかい感触が当たって実に悩ましいし試合に集中できない。
だが悪い気分ではないので黙っておく。
「これだけ参加者がいるなら当分先だろ。俺としてもさっさと終わらせてほしいがな」
そんな返事をコルネリアに返した時。
タイミングよく司会の声が耳に届いた。
「お次はルカ・サルバ……えぇ⁉ る、ルカ・サルバトーレ様だぁ‼」
名門中の名門サルバトーレ公爵家の人間が参加してると分かり、司会の男性が狼狽える。
周りからの動揺が広がり、誰もがリングに上がる者を見下ろした。
「やれやれ……注目の的だな」
「さすがルカ。カッコいい!」
「お前も皇族だって言ったら盛り上がるぞ、たぶん」
「ルカがそれを望むなら別にいいよ」
リスクなど考えもせずにコルネリアは即答した。
俺はくすりと笑って首を横に振る。
「冗談だ。相手が委縮したらつまんないだろ」
「だね」
そう言って俺は席を立つ。
観客席の一角から地面に降り立ち、多くの視線を受けながらリングに上がった。
眼前には屈強な大男がいる。あいつが俺の相手か。
「まさか武の極致と言われるサルバトーレ公爵家の方と戦えるとは……実に素晴らしい!」
隆起した筋肉をこれでもかと見せつけてくる大男。
はいはい凄い凄い。
「そっちこそ、ご自慢っぽい筋肉が見せかけじゃないと信じてるよ」
「ふははは! 俺の筋肉は数十年鍛え続けた最高の芸術だ! 相手が誰だろうと負けはしない!」
身の丈ほどの剣を構えて大男は豪語した。
いいね。オーラも使えるっぽいしなかなか悪くない相手だ。
俺もまた剣を構えてわずかにオーラを練り上げる。
しかし、直後に肩をすくめることになった。
「行きますぞ、サルバトーレ公子!」
大男が地面を蹴る。
オーラをまとわせた剣を上段で構え、鋭い一撃を叩き込む。
常人なら一撃で重症ないし即死するほどの威力だ。
それを、オーラをまとわせた木剣で防ぐ。
横に倒した木剣が、相手の大剣を見事に受け止めた。
地面がかすかに揺れる。
「……ハァ。ダメだな。期待外れすぎる」
「な、なんだと⁉」
平然と大男の剣を受け止めた俺は、手に伝わってくる感触に深いため息を吐く。
「お前、筋トレばっかでオーラを鍛えてないだろ? ふざけた放出量だ。制御もほとんどされてない。そんな垂れ流しのしょんべんで俺がヤれるとでも思ったのか?」
じろり、と大男を睨む。
コイツのオーラはゴミクズだ。
洗練されていないし、圧縮しないのはまだ分かるが、それにしたって制御能力が低すぎる。
制御能力が低いと練り上げたオーラがすぐに霧散してしまう。
だから威力が低い。
子供だってオーラを鍛えれば今の一撃で地面を砕くこともできる。
俺がそうだった。
結局は筋肉馬鹿。
筋肉を鍛えたところでオーラを練習したほうが効率いいってのに。
俺の期待を返してほしい。
もうコイツに見るものはないと断定し、相手の剣を弾く。
「くっ!」
少し手に力を込めれば簡単に大男を弾けた。
自慢の筋肉などオーラの前には無力だ。
「特別にいいことを教えてやるよ。筋肉よりオーラだ。オーラを鍛えれば最強にだってなれるぞ」
現サルバトーレ公爵家の当主とその娘ノルンが実際に極めたオーラで無双している。
オーラとは全ての能力の中でもっともバランスに優れているのだ。
それが使えるというのに鍛えないのはもったいないどころの話じゃない。
今日の戦いはいい教訓になったな。
俺はオーラの放出量を一定で維持したまま、地面を蹴って大男に肉薄する。
筋肉では俺の動きは追えない。
ガラ空きの横腹に木剣を叩き込んだ。
相当手加減した上、相手もオーラが使えたんだ、重症にはなっていないだろう。
精々骨の一本か二本が折れただけだ。
盛大に地面を転がってリングの外へ出た大男は、そのまま二度と立ち上がることはなかった。
一瞬の静寂がコロシアムを満たす。
あんな子供が遥かに大きい大人を一方的にボコしたことが、観客たちには理解できなかったらしい。
まあサルバトーレ公爵家なんてあんまり知らないか。
噂くらいしかな。
遅れて司会の男性が大きな声で俺の勝利を宣言する。
直後、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が響く。
同時に、俺のことを注意深く観察する幾つもの視線を感じた。
今さらながら俺をマークしたってところか? トーナメント戦じゃ意味ねぇよ。
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