第49話 再戦

 カチャカチャ。カチャカチャ。

 軽い足音が洞窟内で幾つも響く。


 今、俺とルシアの前には数体のスケルトンが集まっていた。

 スケルトンは雑魚だ。倒すのに苦労はない。が、問題があるとしたらここにスケルトンがいること自体。


 もしかすると、ダンジョンが発生しているのかもしれないのだから。


「ククク。いいね。ドラゴン退治……とコロシアムのあとにでも攻略しに行くか」


 ダンジョンはいい。宝とモンスターが大量に湧き出てくる。

 その分、攻略するのに骨は折れるが、むしろ骨を折りたいくらいの俺にはぴったりだった。


 ルシアの手に掴む。


「る、ルカ様? 何を……」

「あいつらは無視だ。今はここから出ることを優先する」

「わ、分かったわ」


 大人しく従ってくれたルシアと共に、スケルトンの頭上を飛び越えた。

 オーラをまとい、全速力で駆ける。


 自然とルシアでは俺の速度についてこれない。だから、彼女を抱き上げた状態で走る。


「お、おひひ、めめめ⁉」

「舌噛むぞ」


 意味不明な奇声を発するルシアに忠告しつつ、どんどん洞窟内を走っていく。

 回復したオーラ量からして、すぐに出口を見つけないと苦しいな。


 だが、ダンジョンが発生しスケルトンが生まれているのなら……出口もそう遠くはない。


 スケルトンは雑魚だ。雑魚が生まれるのは、ダンジョン内でも浅層だと相場が決まっている。

 消費量の効率度外視でオーラを練り上げると、さらに速く走る。

 すると、およそ一分ほどで出口を見つけた。


 やはり、途中で階段があったのが大きいな。そこを上がればすぐに地上へ出られた。











「ま、眩しい……」


 少しぶりの日差しを受けて、ルシアが目元を手で覆った。

 俺もわずかに顔をしかめる。


 外にはドラゴンの姿はない。物音もしないし、たぶん、シェイラは上手く逃げ切れたのだろう。

 それを確認すると、ルシアを下ろしてその場に座った。


「ルカ様? 何をしてるの?」

「見たまんま休憩だよ。オーラの回復に努める」

「どうして?」

「これからドラゴンを倒す。それにはオーラがないと困るだろ」

「ま、まだやるの⁉」


「当然。元々あいつを殺しに来たんだ、穴に落ちただけで尻尾巻いて逃げられるかよ」


 そういうことをするのはむしろドラゴン側だ。人間に尻尾はないからな(ドヤ顔)。


「で、でも……ルカ様だってあのドラゴンにはまだ……」

「勝てないと思うか?」

「正直に言えば」


 本当に正直な奴だな。

 自分の攻撃がまったく通用しなかったから精神的にきているらしい。

 だが、不愉快な意見だ。


 俺がドラゴンに勝てない? 成体でもないドラゴンに?


 その考えを改めてもらう必要がある。

 俺は、勝ち目のない戦いは挑まない主義だ。


「ならお前は逃げていいぞ。どうせ戦うのは俺一人だ」

「ルカ様……」

「安心しろ。俺は勝つ。勝ってお前の下に戻る。そして、訓練だ」


 にやりと笑ってルシアにそう告げる。

 すると彼女は、顔を赤くした状態で固まった。

 首を傾げる俺に、しばらくして返事を返す。


「……そう。じゃあ、私も見守るわ。あなたの勝利を」

「任せろ」


 俺は絶対に勝つ。勝たなきゃ意味がない。











 休憩すること数時間。

 充分にオーラが戻った。その場から立ち上がると、同じように立ち上がったルシアに最後のお願いをする。


「なあルシア」

「なに?」

「魔法を撃ってくれ。威力が高い派手なやつ」

「どこに?」

「どこでもいいぞ。ドラゴンを引き寄せられるならそれでいい」

「分かったわ。すぐに始める」


 そう言ってルシアは手元から雷を放出した。

 空に雷が奔る。

 凄まじい音が響き、直後、地の底から響くような雄叫びが続いた。




「グルアアアアアアア‼」




 ドラゴンの咆哮だ。

 羽休めでもしていたのかな? やけに怒った様子で一匹の赤い竜が空に上がってくる。


 それを見上げ、俺は剣を抜いた。


「よう、さっきぶりだな、トカゲ野郎。テメェにやられた仇を仇で返しに来てやったぞ」


 全身にオーラをまとう。


 ドラゴンは怒りの表情でもう一度吠えると、勢いよく空からこちらに突っ込んできた。

 正面から一撃で終わらせる気だ。

 その男気に、俺は答えることにした。


「る、ルカ!」

「黙って見てろ。すぐに終わらせる」


 俺は魔力を練り上げる。

 火属性と風属性の魔法を構築し、それを複合。

 巨大な炎の球体を生成し——ドラゴンにぶつけた。


 轟音と衝撃が周囲を埋め尽くす。


 なまじ正面から突っ込んできてくれたおかげで、ドラゴンは魔法を躱せなかった。俺も狙う必要がない分、シンプルに威力を底上げすることができた。

 結果、ドラゴンは自分自身の運動エネルギーを含めて大ダメージを負う。


 地面に倒れ、口の三割ほどが弾けた飛んだ。


「う、そぉ……」


 ルシアが倒れたドラゴンを見て驚愕する。

 驚くのはまだ早いぞ。ドラゴンは生きてる。最強種は伊達じゃない。


「今のもお前に教える予定の複合魔法だ。すぐにこれくらいの威力が出るぞ。お前には才能があるからな」


 そう言って剣を構えると、ドラゴンが立ち上がる前に地面を蹴った。


 地に落ちたトカゲ退治といこうか!

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