第51話 歪められた名物

 ……速い!


 技シャウトをしつつ、中津は突進した。

 デザートイーグルを構えた谷町さんに向かって。


 ドン! ドン! ドン!


 装弾数9発のうちの3発。


 腹部、肩、頭に命中。


 頭は額に命中した。

 頭部の後ろ半分が吹っ飛ぶ。


 さすがデザートイーグル。


 しかし……


 それでも中津は止まらず。


「今日はこのくらいにしといたる」


 その言葉を発した瞬間。


 ギュルルルル、という感じで。

 飛び散った脳、頭蓋骨の破片が巻き戻り、修復されていく。

 砕けた肩も、腹部の傷も治っていく。


 そして


「うーんチューイングボーン」


 その言葉を発すると同時に。

 中津は急ブレーキを掛け、後方に跳躍する。


 ……!


「谷町さん離れてッ!」


 俺の叫び。


 それを、谷町さんは真横に跳んだ。


 ほぼそれと同時だった。


 谷町さんのいた場所を、破裂音と共に爆炎が巻き起こる。

 これは……見えない爆弾……?


「……ちっ、避けたわね」


 心底悔しそうに言う中津。

 死ねば良かったのに。

 そう言外に言っている。


「……爆弾だと……? 島木譲二のギャグを……」


 吉本新喜劇の名物だったのに……!

 俺は人を幸せにする行為を、人を殺害する行為に変換したこの女に激しい怒りを感じた。


 その俺の憎悪を見て


「……何なのアンタ? すぐ男は感情に振り回され、怒りを振りまく。人間の劣等種が……」


 そうやって、せせら笑う。


 ……こいつ!


 俺は叫びそうになった。

 だけど


「……人間の劣等種って、あなたも男性がいたから存在できたんでしょうが」


 俺の代わりに、天王寺さんが言ってくれた。

 その言葉は堂々としていた。


 それに対して


「黙れ小娘ッ! お前は何も分かっていない! ゴミが! ブタがッ! 孕み袋がッ!」


 中津は鬼女の表情で、天王寺さんを罵る。

 天王寺さんは溜息をつき


「……自業自得の罪状で、男性関係で破滅して、それでここに落ちてきたのね……オバサン」


 そう、落ち着いた調子で言い放った。

 全く怯えを見せずに。


「特に孕み袋って汚らしい罵り文句にそれが出てる気がする。……幸せな女性が生前、憎くてしょうがなかったのね」


 分析。

 容赦のない分析。


 その言葉は中津の心を抉ったのか


 中津の顏から人間が消えた。

 そこにいたのは憎悪に燃えたケダモノ。


 そして


「粉々に弾け飛べ!」


 腕を前に着き出し


「うーんチューイングボーン!」


 気合を込めてシャウトする。

 それに天王寺さんは


三つ目の膝ザ・サード!」


 床の絨毯に電動こけしを突き刺した。


 アハーン!


 悶える赤絨毯が自分から捲れ、天王寺さんを爆風から守るシェルターと化す。


 大爆発。だが、天王寺さんはそれに耐えた。


「リカちゃん!」


 なっちゃんは天王寺さんに駆け寄ろうとするが


「ナツミ! 私の運動能力を上げて!」


 そして同時に、自分の大阪スキル使用の許可を出す。


「分かった! みだれ髪!」


 なっちゃんの右手が輝いた。

 なっちゃんの大阪スキルで、天王寺さんの身体能力が向上する。

 元々、女子としては身体能力が高い彼女。


 その後の動きの滑らかさ、俊敏さ。


「うーんチューイングボーン!」


 続く中津の爆弾攻撃を、天王寺さんは鮮やかに躱す。

 そして、中津の意識が天王寺さんに完全に向いた瞬間。


 無言で、両手に日本刀を携えて谷町さんが突っ込んだ。


 そして二刀流の斬撃で


 ……中津の両腕を斬り落とし、胴体を半ばまで斬り裂いて、その臓物を溢れさせた。


「ちいいっ!」


 斬り付けられて慌て、必死で引く。

 引いて


「今日はこのくらいにしといたる」


 その瞬間。


 斬り落とされた両腕が生え。

 裂かれた腹部の傷の中に内臓が収まり、傷が塞がっていく。


 ……キリがない。


 どういうことなんだ……?


 ……観光系大阪スキルは発動させると、常時発動技ってのが多くの場合、ある。

 ひょっとしたら、吉本新喜劇だから、痛覚をオフにする技が常時発動なのかもしれない。


 だから、ダメージを受けても即死状態でない限り、死なないのかもしれないな。


 ああでも、頭を撃たれても死んでなかったな。

 あれはどういうことなんだ……?


 悩む俺。

 そんな俺を他所に


「……もう、しょうがないわね……!」


 中津は離れた位置に立ち。

 自分が攻めあぐねていることを自覚したのか。

 ギリィ、と奥歯を噛み締める。


 そして


「奥の手よッ!」


 言って。

 自分のダンスドレスを破り捨てて脱ぎ捨てた。


 そして多少衰えはじめた裸身を晒した。


 ……パンツ一枚だ。


「な……!」


「変態……!」


 女子2人が動揺していた。

 俺と谷町さんは何の反応もしなかったが。


 ……正直、熟女はナシでは無かったが。

 あんな醜い精神が乗った女体なんて、何の価値も無い。

 俺だって、趣味ぐらいあるんだ。


 ……何をするつもりなんだ……?


 分からないから、俺たちは止まっていた。


 そんな俺たちを前にして。

 中津は言ったんだ。


「大阪名物パチパチパンチよ!」


 ……パチパチパンチ!?

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