第55話 少女の覚悟
「私がやりますから」
……なっちゃん。
俺は、女の子にそんなことをさせることに抵抗があったが
現行、俺には出来ないんだよな。
シャークバイトを使い切ってしまったから。
だから……
「悪い。頼む……」
そう言うしか無かった。申し訳ないけど。
それになっちゃんは頷き
「……源氏物語」
左手に本を持ち、中津の腕の前に立つ。
ガムテープで纏められた、2本の腕の前に。
「contentsシャークバイト!」
そして右手で拳を作り、中津の腕に振り下ろした。
バクンッという音がして。
中津の両腕は消滅した。
タタタタとまだ中津の下半身が走り続けている。
……パンいちの、中年女の下半身。
なかなか壮絶な光景。
内臓が露出しているせいか、だんだん排泄物の臭いが漂って来ている。
「……残ってるのはあれですね」
なっちゃんが、最後のシャークバイトでそれを消そうとする。
だけど……
(なっちゃん。それは無理だ)
俺はなっちゃんの覚悟には敬意を感じていたが。
シャークバイトで消し飛ばすのが可能な体積じゃない。
「なっちゃん……」
俺がそう、彼女に言おうとしたら
「梅田さん」
スッと。
横から谷町さんがやってきて。
こう言ったんだ。
「キミが何もかも辛いことをしょいこむ必要は無い。……あとは男に責任を取らせろ」
……周りで傍観してて、ただの一度も手を貸さなかったホストたちを指差しながら。
そこからはなかなかすごかった。
ホスト達が寄ってたかって、中津の下半身を抑え込み、身動きできなくしたんだ。
熊と同じ筋力とは言っても、下半身しか残ってないし。
10人以上いたホスト。
彼らも一応男なんだよな。
全員で力を合わせたら、出来たようで。
しばらくしたら、動かなくなった。
すると……
パアアアッ、と中津の下半身の死体から、輝く光球が浮かび上がる。
まるで、小さい太陽を思わせる、明るい球。
「……これは何ですか?」
天王寺さんが谷町さんに、その眩しさに目を細めながら訊ねる。
すると、彼はこう答えた。
「……大阪四天王の資格だ。……僕はいらない。誰か取ってくれ」
僕が奪いたい資格を持つ相手は他にあるから。
彼はそう言った。
……そのときの表情に、俺は
彼がその「四天王の資格を奪いたい相手」に、何か根深い感情を持っていると感じた。
……何か、あったのか……?
そんな俺たちを他所に
「ナツミ……私が取っていい?」
「リカちゃん……?」
天王寺さんは覚悟を決めた目をしていた。
大阪四天王という名の大阪スキル使い……それを倒し、その資格を奪うこと。
それはつまり、他人の命を奪い、突き進んでいく覚悟。
「……ここは私が取りたいの。覚悟を決めるために」
そう、彼女は口にした。
なっちゃんは……
「分かった。お願い」
「アリガト」
言って、天王寺さんは手を伸ばす。
光球は、そんな天王寺さんの手に吸い込まれ……
取り込まれた。
「……これで、大阪四天王の『不老不死』が途切れた」
そう、谷町さんが言う。
……大阪四天王は、大阪王に謁見した時に「決して老いず、そして殺されない限り死なない」という、限定的な不老不死を下賜されるらしい。
それは、誰かが1人でも倒されたら途切れるそうだ。
つまり……普通の人間と同じように、老化し、寿命もある存在になってしまうんだ。
だから……
「これから、他の四天王が接触を図って来ると思う」
そして、再度の大阪王との謁見を持ちかけてくるはずだ。
そこを、叩く。
……ここからは戦いの連続か。
もう、あとには引けない。
そう、俺がこれからについての覚悟を固めていると。
『……よくもアタシをまた死なせたわね』
上半身裸の女の姿……
その場に、中津の霊が出現した。
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