第56話 解放の結末
中津由紀子……北区の女王だった女。
この北区を女尊男卑の男の地獄に変えた女。
彼女は……泣いていた。
とても醜く。
「あなたが悪行を成していたから、最初にどの四天王をやるかで全く迷わなかったわ」
天王寺さんが、そんな中津に冷たく言い放つ。
「それを全く悪いとは思ってない。そのまま相応しいところに堕ちなさい」
『この女の敵が! 私の作り上げた女の楽園を潰しやがって!』
天王寺さんを怒鳴りつける中津。
だか天王寺さんは怯まない。
「こんなものを女の楽園だなんて言わないでください。迷惑なので。オバサン」
『ウルサイウルサイウルサイ! お前は何も分かってない! 完璧に間違っている! 女はもっと大切にされるべきなのよおおおお!』
泣き喚きながら天王寺さんに暴言を吐く。
……話にならない。
そこに
天からの声が降って来た。
始まった……
最後の審判……
泣き喚いていた中津は、その声でピタリと泣くのを止めた。
お前は「大阪出身者の夫を全く立てず、挙句不倫した罪」を反省せず、ここでさらに酷い悪事を繰り返したな……。
声は中津を容赦なく攻め立てる。
最初はそれに震えあがっていた中津。
だが、このままではそのまま最悪の判決を下されると思ったのか
『うるさい! 不倫が何だ! ちょっと遊んだだけじゃないの! アタシは5年もあんなつまんない関西人と付き合ってあげていたのよ!? それを全く感謝せず、たった1度の不倫であっさり離婚しやがって! アタシは被害者だ!』
……言い返した。
クズではあるけど……大した度胸だと思った。
それに対して天の声は
お前は何も理解しなかったようだな……
『ウルサイウルサイウルサイ! 女をイジメるお前はどうせ男なんだろう!? 女ばかり搾取しやがって! お前は救いようのないクズだ!』
また、泣き喚きはじめた。スイッチが入ったのか。
『私を可哀想だとは思わないのか悪魔が! 私は離婚されただけじゃなく、慰謝料まで取られたんだぞ! 信じられないだろうが! かつては「愛している」って言ってた癖に!』
醜く泣き喚きながら、叫び続ける
『私は無職無一文で叩き出され、多額の慰謝料を巻き上げられ、その借金を返すために毎日クタクタになるまで工場で働かされてボロボロになって死んでいったんだ! そんな可哀想な私にこの仕打ち! 絶対に完璧に間違っている!』
そんな中津に、天の声は
……お前は畜生道に行ってもらう。
お前には人間の一生はまだ少し早すぎたようだ。
……2000年ばかり、豚に転生して勉強し直して来るがいい。
容赦のない、天の声。
同時に。
中津の霊の周囲に、白い腕が出現し、彼女を地の底に引きずり込んでいく。
……あのときのように。
『いやああああああ!』
そして中津は白い腕に地の底に引きずり込まれた。
……なるほど。
今のは、俺にも分かった。
この天の声が真に問題にしていたのは、不倫ではないな。
あの天の声が問題にしていたのは……おそらく「他責による自己憐憫」と「他者への感謝の無さ」
その醜い精神性を問題にしてたんだ。
だから、俺はあの残虐で醜い女は大嫌いだったが……
畜生道に送られて、ざまあみろとは言えなかった。
中津の姿は、あとの自分の姿かもしれない。
自分が送られた罪の裏に潜む、自分の問題点に気づかなければ、ああなるかもしれないんだ。
「……私もここでもう1回死んだら、ああいう裁判に掛けられるんですね……」
天王寺さんが、しみじみという感じでそう呟いた。
中津の城を出ると。
道に中年女の死体があった。
ボコボコに殴られて、あちこち骨折した、無残な死体。
……そこらじゅうで、女の悲鳴が聞こえる。
一瞬、俺はわけがわからなかった。
だけど……
「おそらく、今まで眉毛ボーンで拘束されていた男たちが、今まで自分たちに隷属を強いていた女たちに牙を剝いたんだ……中津が倒されて、大阪スキルの効果が消えたせいで」
谷町さんが口にした予想。
……あっ
俺は、そのことを予想していなかった。
なんという……迂闊。
この状況で自由を得たら、誰だってそうする。
今まで暴君として君臨していたアマゾネスたちを、殺そうとするに決まってるじゃないか。
だったら……
「助けないと」
なっちゃんがそう言った。
俺も、心情的にはそうだった。
だけど……
「ダメよ。ナツミ」
天王寺さんがそれを止めた。
そしてこう続ける。
「……今の北区は男の地獄から、女の地獄に変貌したの。おそらく中央区の数倍酷い女の地獄……。私たちも速やかに脱出するべきよ」
冷静な分析。
今まで散々なことをしたのだから、アマゾネスは殺されて当然だ。
そういう意味で言ってるんじゃなくて……
ここにいると、私たちがまずいんだ。
ただ、それだけ。
……でも、言わんとすることが単純であるせいか
なっちゃんが、迷いつつもその首を縦に振ったんだ。
……こうして。
俺たちは、北区を支配していたアマゾネスの女王・中津を倒し。
四天王の資格をひとつ奪い取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます