5章:犯罪仮面のおじさんは

第57話 淀川区のヒーロー

 淀川区は他の区と比較して治安が良い。

 浪速区の治安が良いのは、大阪ハンターの本拠地だからだけど。


 淀川区はそうじゃない。

 そうじゃないのに、治安が良いのは。


 ……ヒーローがいるからだ。


 それは……


「犯罪仮面……何なんだよそのネーミング」


 俺は、槍と投網銃を装備して、道頓堀を歩いていた。

 人の住まない建物の傍を、大阪スキル技「ドルフィンソナー」で探索しながら歩いていく。


「犯罪仮面のおじさんは~正義の味方よ、良い人よ~♪」


 電動こけしを片手に持った天王寺さんが歌う。


「……よく1回聞いただけで覚えられるよね。リカちゃん……」


 その横に左手に本、右手に電動こけし。

 なっちゃんがついている。


 今、俺たちはゆとりある生活費のために、大阪生物の「ヒャクシタ鳥」を探して歩いていた。


 ヒャクシタ鳥……全体的なフォルムは、熱帯雨林のジャングルに生息してそうな鳥の……オオハシ? に似ている。

 色はピンク色。

 知能が高く、鳥なら標準装備してそうな特殊能力「声真似」をありえへんレベルで身に着けた生物だ。

 一度聞いた声を、100%覚えて繰り返す。

 普通だったら、何回も目の前で話すみたいなことをしなきゃならないのに。


 なので、ペットとして売ると100万円くらい稼げるんだけど。


 ……もうひとつ、厄介な特殊能力があって。


 大阪スキル技のコピーもさ、可能なんだよね……。

 発動に発声が伴うやつは、全部。


 それをさせてしまうと、商品価値がゼロになるんだよな。

 危なくてしょうがないし。

 そうなると。


 ……なんで危ないかって?


 あなたは拳銃を携帯した動物を、ペットとして飼えますか?


 なので。

 ヒャクシタ鳥をペットとして捕獲する場合は発声を伴う大阪スキルを使用せずにやらなきゃなんない。


 だから俺はドルフィンソナーしか使えず。

 天王寺さんとなっちゃんは三つ目の膝しか使えない。


「ケンタさん、ドルフィンソナーに怪しい生き物は引っかかってますか?」


 なっちゃんの言葉。


 俺のソナーの反応には……

 ……鳥サイズの生き物はちょっと見当たらない。

 俺は首を左右に振る。


「ちょっと色々出費があったから、ドカンと稼いでおきたいところですしね」


 天王寺さんの言葉に俺は頷いた。

 こないだの北区攻略のとき、スーツを2つ揃えたしな。


 ……前にも言ったけど、この世界では新品の服は高いんだ。

 高かったよ……


 普段着用の服でもかなりするのに、一張羅。

 これは高くないわけがない。


「……どうしても古着は避けたいですしね」


 なっちゃんが言ったことに、俺は頷く。


 そりゃね……

 追剥の売った服なんて買えないよ……


 淀川区で買えばひょっとしたらまともな古着あったのかもしれないけど。


 ……話をちょっと戻す。


 犯罪仮面。

 それは淀川区のヒーロー。


 淀川区で殺人、強盗、誘拐、強姦が発生しそうになると駆けつけてくるらしい。


「ヒーローの出番です!」


 という言葉とともに。


 その姿は……白いヘルメットに黒いサングラス、そして白い布マスク。

 そこに茶色の立派な背広を身に着けているという。

 見たところ、それなりに齢を重ねた男性のよう。


 そんな彼が何故犯罪仮面と呼ばれるのか?


 ……それは


「ひったくりアクセル!」


「違法駐輪の檻!」


「飲酒運転ブレイク!」


 ……大阪スキル使いで、しかもどう考えてもそのスキルテーマが「犯罪」だからだ。

 だから、犯罪仮面。


 犯罪の大阪スキル……弱いわけ無いよな。

 大阪と言えば犯罪という、不名誉なイメージあるし。

 観光系かな……? 偉人系でも食べ物系でもないしな。


 そんな強力な大阪スキルを使用し、悪党をバッタバッタと処刑していくのだ。

 そのせいで、重度の犯罪傾向を持っている住人は、他の区に行ってしまったらしく。

 そのおかげで、比較的淀川区には平穏がある。


 ……で、そんな彼が、淀川区に居る大阪四天王のひとり。


「……犯罪仮面は倒さないといけないんでしょうか?」


 なっちゃんのそんな言葉。

 俺も正直分からない。


 淀川区が平和なのは彼のおかげなのはおそらく間違いないと思うし。


「まあ、本人に会って、私たちに賛同して貰えるなら仲間になって貰っても……」


 天王寺さんがそんな意見を、なっちゃんに向かって言ったときだった。


 声が、聞こえて来た。


 がおおおおおおおおお……


 少女の声。

 これは……


 マズい!

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