第58話 初老の男性との出会い

 がおおおという鳴き声。

 これは……大阪生物「ゴールインガール」がいる証。


 ゴールインガール……陸上選手の衣装を身に纏った金髪長髪少女の姿をした大阪生物。

 牝しか存在せず、男を見つけると襲って来る。

 その生殖器をもぎ取って、食して妊娠するために。


 走り続けている生物であり、止まるときは死んだときのみ。

 睡眠も出産も食事も全部走りながら行う。


 警戒すべきは口から吐くドロッとした粘液。

 皮膚浸透し、全身麻痺を引き起こす。

 浴びすぎると心停止を引き起こし、死んでしまう。


 ……危険な大阪生物だ。


 がおおおという鳴き声は、男を見つけて襲っているときの鳴き声。


 普段は「にはははは」と笑っているんだけど。


 にはははなら、遭遇回避のための進路変更。

 がおおおなら……


「助けに行こう!」


「はい!」


「わかりました!」


 天王寺さんとなっちゃんが、俺の言葉に賛同してくれた。

 頼りになる仲間だ。


 ……行こう!




 俺のドルフィンソナーで見つけた襲撃場所に駆けつける。

 そこには……


「がおおおおお!」


 長い金髪を後ろで白いリボンで結んだ陸上少女が、初老の男性に狙いを定め、周囲を駆け回っている。


 初老男性は拳銃を構え、動けないでいた。


「がおっ!」


 ゴールインガールが粘液を吐く。

 かなりの量だ。洗面器一杯くらいの量。


 初老男性は、年齢に似合わない俊敏な動きでそれを回避した。


「助けます!」


 俺は男性の傍に駆け寄った。

 そこに駆けつけてくる女子2人。


 女子2人は駆けつけてくる前に電動こけしをマンホールや電柱に突き刺してくる。


 アハーン、という喘ぎ声が響き渡り。


 2人の電動こけしでよがった電柱とマンホールが捩じれ、浮遊して。

 2人の従者として付き従って来る。


 2人は思考で命じたのだろう。


 走り回っているゴールインガールを拘束する方向で指令を飛ばし


 電柱の電線が触手のように動き、あらゆる方向からゴールインガールを追い。

 マンホールの蓋が、それをサポートするように動く。


 ……さすが親友。

 息がぴったり合ってるよ。


 ゴールインガールの行動範囲がグッと狭まる。


 そんな状況を、その初老の男性は見逃さなかった。


 持っている真っ黒い簡素な拳銃……トカレフだろうか?

 中央区の武器屋で見たことある。


 それを構え


 パン、と一発撃った。

 それが、ゴールインガールの額に命中。


「がお……」


 それが、最後の叫び。

 ゴールインガールが倒れた。


 ……動かない。

 ゴールインガールが止まるとき。


 それは……死んだとき。


 終わった……


 俺が安心して、胸を撫でおろすと


「……ありがとう。助かったよ」


 初老の男性は俺たちに礼を言った。


 見た目は非常に優秀そうな男性だった。

 そして、とても厳しそう。


 すごい鷲鼻で、年齢のわりには筋肉質。

 禿げておらず、白髪交じりの黒髪。

 それを角刈りで整えている。


 茶色の背広を着ていた。

 だけど、結構くたびれている。


 ……靴は。

 これは新しめで、運動靴だった。


「こんなところに何をしに来たんですか? ここは地獄の道頓堀ですよ?」


「大阪スキル持ちでないと危ない地域なのに」


 俺と天王寺さんの言葉。

 これは嘘ではない。なっちゃんも、俺たちの言葉に頷いていた。


 無能力者が足を踏み入れていいのは、道楽蟹がいる周辺地域まで。

 奥に進むとウルトラやばい大阪生物が徘徊しているのに。


 ゴールインガールもだけど、フラックとか。


 すると……


「ちょっと金になる大阪生物を狩りに来たんだ。少し要り様な事情があってね……」


 そう、男性は苦笑する。


 そして


「私は木津川幸雄きつがわゆきお。キミたちも同じ目的かい? 見たところ」


 彼はそう言って、俺たちに友好的な笑顔を向けた。

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