第54話 無計画な俺
俺たち全員が死んだふりをしたせいで。
中津は俺たちを認識することができなくなった。
……さあ、どう出る?
予想はしているけどね……
「正々堂々戦え! 男の癖に情けない!」
中津は吼えている。
無論無視だ。ああやって口汚く罵っているのは、対処法が無いから。
そして、しばらく待っていると
「……無差別に爆破してやる!」
……それが来るよな。
分かってたよ。
多分、熊の視界になった中津は、対象が死んだふりをはじめたらその対象が元々どこにいたのかすら分からなくなる。
なので、死んだふりを始める前に居た場所をとりあえず攻撃するという選択肢が取れないんだ。
でないと、熊の出現を確認してからの死んだふりに効果が無くなってしまうからな。
……となると。
チューイングボーンの無差別使用。
これしかない。
周囲を無差別に爆破する。これしか。
だから
「俺はここだ!」
俺は素早く起き上がり、駆け出す。
中津に向かって。
同時に中津に向かって放つ。
「サーディンランブラスト!」
突然出現した俺に対応できなかったのか。
中津はまともに俺の技を浴びた。
「ぐわあああああ!」
同時に、俺はなっちゃんに向けて
「俺の大阪スキルを使用していいよ!」
許可を出しておく。
……天王寺さんの大阪スキルは適用範囲が半径3メートルと狭く。
応用力はあるかもしれないが、遠距離で小細工の暇が無い相手ではなかなか有用活用できないし。
俺の大阪スキル技をまともに浴び、壁に叩きつけられる中津。
常人ならサーディンランブラストを喰らった場合、気を失う可能性があるが……
「こんなもの、アタシには通用せん!」
そこから即中津は立ち上がり、俺を迎え撃つべく飛び出して
こようとしたときに。
ドン! ドン! ドン!
残弾最後の3発。谷町さんのデザートイーグル。
それが中津の両脚と口に着弾する。
谷町さんは、厳しい顔をしてデザートイーグルを伏せ撃ちの姿勢で構えていた。
その銃口からは硝煙が上がっている。
しかし
口を破壊されながら
中津の顔は言っている。
いくら撃っても無駄なのに、と。
実質その通り。これでは中津は死なない。
だけど……
……今回は、撃った場所が問題だ。
だが
「ふぇふえふふえるッ!」
口が破壊されているのに。
ちゃんと言葉になっていないのに。
何かを中津が言った途端。
同時に、撃たれた足、口の傷が回復していく。
……正直、これには驚いた。
正しく発音できてなくていい。
言えたことが大事なのか。
このくらいにしといたる、は。
だけどね……
足が治るまで、お前は移動できないんだよ。
そこは動かないんだ。口を塞ぐのはダメだったけど。
……ホンの数秒だけだけどな!
だから……
「シャークバイト!」
バクンッ!
……中津が最後の瞬間に、自分が今、回避不能の状態に陥っていることに気づいたか気づかなかったか。
よく分からないけど、俺のシャークバイトがまともに決まり。
中津の上半身が削り取られたように消失する。
びったん、びったん。
タタタタタ……
シャークバイトで食いちぎられ、消失した中津の上半身。
食い残しの両腕が跳ね回り、中津の下半身が走り回っている。
……再生する素振りは無い。
流石に、頭部が完全に消失したら、言葉を発するという行為が絶対不能になるので、再生できないのか。
でも、死んで無いんだな。
だから、死なないために動き続けている。
……谷町さんは平然とそれを眺めていたが。
女子2人は……青ざめている。
そりゃそうだろうな。
あまりにもグロすぎるもの。
……どうするべきか。
俺のシャークバイトで不可視のホオジロザメが喰いちぎった部位は、どこか異次元に消し飛ばされるのか、存在しなくなる。
だから、シャークバイトを使えば……中津を完全消滅させることは可能なんだよね。
……だけど。
もう、シャークバイトを2回使ってしまった。
……実はシャークバイト、連打は2回までなんだよな。
サメが狩りに歯列2列までしか使ってないところから来てるんだろうけど。
1回使うと、その1回が回復するのに30分かかる。
……もうちょっと、考えて使えば良かった。
俺、テンションが上がるとこういうことやるんだよ。
勢いに任せて、やっちゃうんだ。
……俺は自己嫌悪に陥ったが。
だからといって、何もしないわけにもいかないし。
……俺も嫌だったが、暴れ回っている中津の両腕を拾って纏める。
手が動き、俺を引き裂こうと動くんだけど。
腕だけだから上手くいかない。
「……1時間待ってくれ。シャークバイトが回復したら一気に消し飛ばす」
ホストたちに言って、ガムテープを持ってきてもらい。
中津の両腕をひとまとめにしてから、女子2人に言う。
その間も、中津の下半身が走り回っていた。
だけど……
「ケンタさん」
なっちゃんが俺の前に立つ。
その表情は……
……覚悟を決めていた。
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