第65話 ヒーローの出番です

「ななななぁぁぁっ!?」


 男児野は対応できなかったようだ。

 まさか自分の大阪スキル技をコピーされるなんて考えていなかったか。


 コテで反射された白米キャノンをそのまま、まともに喰らってしまう。

 そして餅になった白米に拘束された。


 そりゃま、そうなるだろうね。


 ……つくづく、谷町さんはすごい。

 自分の能力を研究し尽くして、それを有効に生かすにはどうするべきなのか考えている。


 ヒャクシタ鳥という大阪生物の特殊能力に目を付けて、他の大阪スキル使いの技を盗むという使い方をするなんて。


 ……男児野の技に、飛び道具反射の技があると聞いて、倒す前に盗もうという話になったんだ。

 相当使える技だから。


「う、動けねえ」


「……確か、大阪スキルの発動が切れてもしばらく残ってるんだよね、その餅。……詰みかな」


 言いながら、谷町さんは「餃子包みホイポイギョウザ」と言い、ヒャクシタ鳥を餃子に包んでしまう。

 ……収納しておかないと、上書きされてしまうからね。


 ヒャクシタ鳥がコピーできる大阪スキル技は1つ。

 1つ覚えると、前に覚えていた技を忘れる……らしい。


 ……なので、餃子包みホイポイギョウザに関しては「餃子包みホイポイギョウザを覚えることは反逆である」とヒャクシタ鳥に命じているとのこと。


 だったら「リフレクトフライ返しを忘れることは反逆である」と命じればいいのでは無いかと思ったのだけど。

 それに関しては「鳥相手にあまり細かい指示はするべきでは無いんだ。生物相手の場合、本人の能力を越えた命令は出せないからね」と返された。


 ……まあ、鳥は3歩歩いたらモノを忘れるもんな。

 あまり指示はできないか。


「く、くそっ」


「……後ろに回れば、リフレクトフライ返しも、コテブレード・格子斬りも出来ない。灼熱の烏賊の触手バーニング・クラーケンハンドは近づかなければいい」


 そう呟くように言いながら、谷町さんは男児野の後ろに回って行く。


 男児野は焦りと悔しさでものすごい形相をしていたが。

 谷町さんが拳銃を取り出して、男児野を後ろから撃つ構えをとったとき。


「ナメンァァァァ!!」


 男児野は上を向き、大口を開ける。


 ……その口の真上に。


 黒い球体が発生する。


 俺は驚愕した。

 なんだアレは……


 知らないぞ。そんな技……


 すると


 ゴ……と音を立てて


 周囲の人間が、その暗黒の球体に吸い込まれていく……。


 ブ、ブラックホール……!


「ひいい」


「た、助け……!」


「男児野さんッ……!」


 手下たちが。

 そして俺たちも。


「これが俺の奥の手……暗黒豚神穴ブラックホールオーカスだ!」


 これをやれば手下が全滅するかもしれんし、俺は俺で腹がはち切れそうになる! だがもう関係ねぇ!


 男児野はそう、狂ったように笑いながら言い放つ。


 吸い込まれそうになる俺たちは、寸前で天王寺さんが床をイカせて、下僕化した床に掴まる部分を作ってくれたおかげで。

 なんとか吸い込まれずに、耐える。


 だが、俺たちと離れていた谷町さんは……


「くっ……」


 突然のことで、対応が遅れた。

 何も掴まるものが無い。


 頑張って踏ん張ろうとするけど……吸い込まれていく。


「ああああっ!」


 俺は叫ぶ。


 そんな!

 谷町さんは5児の父なんだぞ!?

 死ぬわけにはいかないじゃないか!


 何か……何か無いか!?


「サーディンランブラスト!」


 とっさの思い付きで、俺はイワシの奔流を放つ。

 だが


「クハハハッ! 無駄だぜ!」


 男児野の哄笑。


 イワシたちは、軌道が捻じ曲がってブラックホールに吸い込まれていく。

 クソッ!


 他だ! 他の手段だッ!


 必死で自分の頭を回した。

 谷町さんを死なせないために。


 そのときだった。


「あほんだら恐喝ボイス!」


 鋭く強い声が響いたんだ。

 腹の底から出している声。


 続いてその声はこう言った。


「そのブラックホールを消せ!」


 すると


「分かりました!」


 ……え?


 なんと……男児野は言われたとおりにしたんだ。

 そしてブラックホールが消滅する。


 ……なんで?


 混乱する。

 混乱する俺たち。


 そんな俺たちのところに。


 ザッ、と。


 白いヘルメットに黒いサングラス、そして白い布マスク。

 そして茶色の立派な背広


「犯罪仮面……!」


 天王寺さんが驚きを隠せない風にそう言った。

 俺も驚いていた。


 ……これが……淀川区のヒーロー……!

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